ばきメモソルジャー

??『全く、お姉ちゃんにも困ったものね』
クキカワ『血は争えないという事か』
??『貴方も同じ目に・・・じゃなくて、私はそんなに乱暴じゃないよー』
オカルト女『お、お疲れ様でした・・・』

二人が部屋に入ったのを確認し、鍵を施錠する。
マンションの一室だが、カーテン以外に家具は無い。
ノートパソコンと乱雑に積まれた新聞の束があるだけだ。

ライバル『不自然な演技はもう大丈夫よ』
彼女『不自然って・・・』
幼なじみ『先輩、リアルに凹んでる・・・クキカワも適当に食べて』
クキカワ『いただこう』

フローリングの床に置かれたコンビニの袋から、焼おにぎりを取り出し食べ始めた。

オカルト女『飲み物はこちらです。会長さんは?』
彼女『そのお茶で・・・あら?』

部屋の端に置かれた《それ》が突然バタバタと暴れ出した。
白いシーツで包まれた《それ》は人間くらいの大きさをしている。

彼女『食べ終わってからにしましょう・・・このテリヤキサンド、いただくわ』
幼なじみ『トイレトイレ!って言ってますけど・・・』
ライバル『さすがに可哀想ね』
彼女『お任せします・・・もぐもぐ』



妹『・・・何なのよ、もう!!』
彼女『顔を洗ってきなさい』

さんざん泣き腫らしたからか、妹の顔は酷い事になっていた。

妹『・・・』
クキカワ『・・・グッ!?』

洗面所から戻ってくるなり、メンチカツサンドを口にしているクキカワに蹴りを一発。

ライバル『ほら』
妹『すみません・・・』

下はジャージだが、上はシャツ一枚。
ノー●ラなので、ライバルさんが着ていたジャケットを借りている。

彼女『見て』
妹『ホンッと信じられ・・・何、これ?』

タブレットの画面に表示されたニュースの動画を見て、言葉を失っている。
《深夜未明、数箇所でほぼ同時に・・・》とアナウンサーの音声が聞こえてきた。
ちなみにこの部屋、テレビや冷蔵庫すら無い。

オカルト女『・・・』
幼なじみ『・・・』
妹『・・・クキカワ』
クキカワ『おそらく前に話したアイツが主犯だろう。だが・・・』
ライバル『規模が大き過ぎる?』
クキカワ『ああ。もっと上の連中か、あるいは・・・っ!』

アナウンサーが発した名前にクキカワが反応する。

彼女『・・・知り合い?』
クキカワ『あ、ああ・・・』
妹『う・・・わああああああ・・・!!』

妹がその場にしゃがみ込んで泣き出してしまった。



クキカワ『そろそろ時間か』
ライバル『だね。んじゃ、ちょっくら行って来るわ』
幼なじみ『軽っ・・・』

それから一ヶ月が経った。
世間は事故など無かったかのように落ち着きを取り戻しているように見える。

クキカワ『当事者やその関係者以外は、な』
??『そうね・・・』

ホテルの入口で衣装を渡してくれた女性。
クキカワの上司でマリナという名前(本名かどうかは不明だが)らしい。

オカルト女『・・・』
マリナ『で、貴女は本当に良いの?今ならまだキャンセルできるけど・・・』
ライバル『どっちみち誰かが行かなきゃならない訳ですから。お土産、何が良い?』

日本語のアナウンスに続けて英語のアナウンス。
行き交う人々もキャリーバックを引いており、明らかに日本人ではない人達が多く見られる。

クキカワ『怪しげな・・・』
オカルト女『いりません』

今日、オレ達BMSのメンバーは国際空港の出発ロビーにいた。

ライバル『没収されるわよ・・・ほら、そんな顔しないの』
彼女『・・・』

先程、空港のレストランで食事している時も一言も発しなかった。



幼なじみ『まだ、時間かかりそうですか?』
彼女『・・・みたいね』

あの後、彼女の妹は精神的ショックから体調を崩し入院する事となってしまった。
ある程度は(教団の実態を)把握していたクキカワはともかく、純粋な興味本位だった妹には一連の事件は重過ぎたに違いない。

クキカワ『この後、行くのか?』
オカルト女『お見舞いですか?私達はまだ・・・』
マリナ『そう・・・』

事件から数日間は緊急の特番が組まれる程だったが、一週間二週間と経っていく毎に世間の話題から外れていった。
そして一ヶ月が経った今では、全くと言っていい程にメディアには取り上げられなくなる。

クキカワ『ほとぼりが醒めた頃に名前を変えるなりして出てくるだろう』
マリナ『そうならないようにする事が、せめてもの・・・』

クキカワによれば今回の事件で捕まったのはごく一部、それも下の方の連中だけらしい。

彼女『あの娘があんな事にならなければ、私も・・・』
ライバル『ここから先は大人の仕事よ。あ、そっか・・・大人の階段登っちゃったのね』
マリナ『あら、そうなの?』
彼女『な・・・!それとこれとは・・・痛っ!!』

顔を真っ赤にした彼女に、クキカワがデコピンをお見舞いした。

クキカワ『あまり少年を虐めてくれるなよ?』
ライバル『そうそう、変な趣向に目覚めちゃっても知らないわよ?』
彼女『別に・・・虐めてなんか』
クキカワ『フ・・・達者でな、少年』

クキカワの差し出した手を握り返す。
その後で、幼なじみやオカルト電波少女とも握手した。

オカルト女『戻ってきたら、話してもらいますよ?』
クキカワ『考えておこう』
ライバル『今度ガチの勝負しようね』
彼女『・・・分かりました』



オカルト女『・・・あ』
彼女『どうかした?』
オカルト女『このアドレスパターンは・・・《ライバル》さんですね』
幼なじみ『え!?読んで読んで!』
オカルト女『・・・良いんですか?』

口元にわずかな笑みを浮かべている。

彼女『構わないわよ』
幼なじみ『うん』
オカルト女『分かりました・・・《ハロー、みんな元気?私は昨日も彼氏君の事を思いながら》』
彼女&幼なじみ『『はいストップ』』

二人の声がハモった。
とりあえず、皆でノートパソコンの画面に注目する。

彼女『・・・』
幼なじみ『・・・』
オカルト女『・・・』

挨拶代わりの下ネタの羅列がしばらく続いた後、ようやく本題に入った。

幼なじみ『《新幹線のグリーン車はとても快適です。食堂車ではビーフシチューを・・・》』
彼女『連中の居場所を突き止めたけど、安全の為に一旦離れる・・・って意味で合ってるかしら?』
オカルト女『そうですね』

ノートを見ながら答える。
単なる旅の感想ではなく、それぞれの単語が別の意味を持つ。
出発する前に決めた暗号のようなものだ。
そもそも今の新幹線に食堂車など無い。

幼なじみ『さっすが先輩』
彼女『これくらい造作も・・・あら?』

突然部屋のインターホンが鳴らされた。
オカルト電波少女が素早く周囲を確かめ、幼なじみは鞄からスプレー缶やスタンガンといった物騒な品々を取り出している。
以前の自分ならゲンナリしてしまうところだが、あの一件に遭遇した以上はそうも言ってはいられない。

オカルト女『・・・』

4人で頷き合う。
そして彼女が覗き穴に顔を近付け・・・

彼女『・・・あら?』
幼なじみ『え?』



オカルト女『大丈夫・・・なんですか?』
??『・・・うん。色々とご迷惑をおかけしました。お姉ちゃんにも』

彼女の妹。
会うのは久しぶりだ。
姉である彼女は何回か見舞いに行っていたらしいが、オレや他のメンバーは遠慮していた。

彼女『ずいぶん短くしたのね』
妹『色々吹っ切りたくって』
彼女『困ったわ、身代わりになってもらおうかと思ったのに・・・』
幼なじみ『ちょ・・・先輩』
彼女『冗談よ・・・でも、やってしまった事の償いはしてもらうわ。覚悟はできてる?』
妹『うん・・・だから、彼氏君』

いきなり呼ばれてキョトンとしてしまう。

妹『腕がなまってないか確認したいから、乱取り・・・』
女3人『『『ダメ!!』』』
妹『3人でハモった?』
彼女『貴女の相手は私よ・・・覚悟なさい』
幼なじみ『ヤバい・・・先輩本気だ』
オカルト女『ですね・・・壊れたらまずい物は避難させておきましょう』

その後、破壊音と悲鳴がマンション中に響き渡り・・・オレ達は潜伏先の部屋を追い出される事となった。




幼なじみ『いかがでしたでしょうか・・・?ちなみに妹さんは途中で帰ってしまったので、代わりに』
彼女『全く・・・あれくらいで逃げ帰るなんて、姉として情けないわ』
クキカワ『・・・今回は無理もないだろう』

幼なじみ『という訳で、こちらのお二方にお越しいただいております』
彼女『最後まで読んでいただきありがとうございました。ばきメモシリーズのメインヒロイン、通称《彼女》です』
クキカワ『神官のクキカワです。で・・・今さらかもしれないが、色々あったせいでどうしてこうなったかが思い出せん・・・』

彼女『整理しましょうか。事の始まりは、あの娘が輩どもにナンパされた一件からだったはずよ』
幼なじみ『オカルトちゃんですね』
クキカワ『そうだった。全くロクでもない連中だ』
彼女『社会のゴミ、いやそれ以下ね』
幼なじみ『私達も人の事は言えないですけど・・・』
彼女『私達はそのゴミを掃除しているだけよ。一緒にしないでもらえるかしら?』
幼なじみ『一点の曇りも無い瞳だ・・・』
クキカワ『こういうのが、再び新たな教団みたいな物を作るのだろうな・・・』
幼なじみ『それ・・・普通にありそう』




幼なじみ『いった~い・・・』
クキカワ『おのれ・・・チート女』
彼女『・・・フン』

幼なじみ『うう・・・結局ナンパ男達はどうなったんですか?』
クキカワ『知らんな。一週間くらいして現場に行ってみたが、それらしい連中は倒れてなかったぞ』
幼なじみ『一週間って・・・そりゃそうでしょうよ』

クキカワ『あんな連中に価値など無い。まあ強いて言うなら、有り金と財産を全て教団に寄付する事くらいだろうな』
幼なじみ『なんてムゴい・・・』
彼女『クキカワ・・・言って良い事と悪い事があるわよ』
クキカワ『む?』
幼なじみ『そ、そうですよ先輩!言ってやって下さい、この不審者に!!』
彼女『仮にそんなお金があるとしたら、まず私達が貰うのが筋でしょう』
クキカワ『確かに迷惑を被ったのはそちら側だが・・・って、どうした?滝のように涙を流して』
彼女『なにか悩み事?相談くらいは乗るわよ』
幼なじみ『2人共、分かってて聞くのやめて下さい・・・』
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