ばきメモソルジャー

慣れというのは恐ろしい物だ。
この半年間で改めてそれを感じる。
学校にも行かず、さらに拠点も転々とする非常識な日々にも全く抵抗が無くなってしまった。

幼なじみ『えへへ、ドキドキするね~』

もっともそれは、彼女や幼なじみといった身近な女性の存在が大きいのだと思う。

ライバル『A班、こっちは異常無し・・・ちょっと幼なじみちゃん?吊り橋効果狙ってる?』

そして《ライバル》さんやオカルト電波少女といった面々。
オカルト電波少女と普通に話すようになったのは結構最近だし、ライバルさんは野球関係の雑誌で見た事はあるものの実際に話してみると(自分が抱いていた印象とは)違っていた。

幼なじみ『あ、バレました?』
ライバル『古典的だけど効果的な・・・誰?』

突然、ライバルさんの声色が変わった。
一同に緊張が走る。
先程までふざけて密着していた幼なじみからも、背中越しに殺気のようなものが感じられた。

??『・・・おまえ達、何をしている?』
幼なじみ『・・・』
ライバル『何って、そりゃもちろん・・・』

ニット帽にサングラス姿の男性が現れた。
幼なじみがそれとなく、オレと男性の間を塞ぐような位置に移動する。

??『このビル、教団の関連施設だぞ』
幼なじみ『え・・・!』
ライバル『だって・・・ちょっ、何するのよ!』

ライバルさんが取り出したスマホを引ったくる謎の男性。
教団の関係者だろうか?



ライバル『返しなさいよ!合コンでゲットしたメアドが・・・』
幼なじみ『あの・・・合コンはともかく、いきなりそれは無いんじゃないかな?メアド知りたいんだったら、普通に・・・』

オレなんか、BMSの事務所に連れてこられたその日の夜に番号とアドレスが登録されていた。

幼なじみ『そういえば、主人公君がトイレ行ってる最中に・・・』
??『これか!くそ・・・やはり』

スマホの画面に触れていた指が止まる。

ライバル『アンタねえ!!いい加減に・・・』
??『全員か?』

スマホをライバルさんに返しつつ、幼なじみに問いかける。
切羽詰まっているような感じだが、何処かで聞いた覚えがある声だった。

幼なじみ『いえ・・・その』
オカルト女『どうかしました?』
彼女『声がしたけど、何かあったの?』
幼なじみ『全員・・・です』

彼女とオカルト電波少女が戻ってきた。
暗闇に女4人とオレ、そして謎の男。

??『よし・・・全員ビルから離れろ』
幼なじみ『それって・・・』
??『急げ』

有無を言わせぬ口調。

彼女『言う通りにしましょう』
ライバル『後でしっかり説明してもらうわよ』
オカルト女『行きましょう』

一斉に走り出す。
そして、しばらく走った時だった。

??『伏せろ!!』彼女『伏せてッ!!』

同時に発せられたその声と共に、もの凄い勢いで頭を地面に押し付けられる。



そして数秒後・・・凄まじい轟音が響き渡った。



幼なじみ『ウソ・・・でしょ?』

よろめいた幼なじみを彼女が咄嗟に支える。

彼女『しっかりしなさい』
ライバル『あの爆発じゃ・・・』

彼女やライバルさんも平静を装っているものの、声は震えていた。
無理は無い。

??『まさか・・・』

先程までいた辺りを唖然と見つめる一同。
火柱が高く上がっており、あのままあの場所にいたらタダでは済まなかっただろう。

オカルト女『クキカワ、これは一体・・・?』
幼なじみ『クキカワ?』

ニット帽+グラサンの男性を見る。
明らかに普通の、いや割と地味な服装だ。
怪しげな自称神官とは似ても似つかない。

クキカワ『せいぜい制服姿の連中を呼ばれてるくらいかと思ったが・・・』
彼女『全くの想定外だったって事ね』
ライバル『とりあえず離れましょう』
オカルト女『はい』



幼なじみ『ごめんなさい・・・』
ライバル『無理もないわ』
彼女『降ろすわよ』

広い公園にやってきた。
大きな池を囲むようにして、ベンチが幾つか置かれている。
時間が時間だけに、オレ達以外に人影は無い。
ライバルさんが幼なじみを、そして彼女がオレをベンチに座らせた。
彼女に背負われて、初めて自分自身も腰を抜かしていた事に気付いたくらいだ。

オカルト女『分裂・・・ですか?』
クキカワ『ああ・・・もう教団は終わりだ』

憔悴しきった表情の神官クキカワ。
火柱こそ見えなくなったもの、消防車やパトカーのサイレンがひっきりなしに鳴っている。

幼なじみ『終わりって・・・そんな簡単に』
彼女『指揮命令系統の中枢がやられた以上、崩壊するのは時間の問題だわ』
ライバル『ここだけじゃないでしょう?おそらく何箇所も・・・』

その言葉の意味が分かってしまうと同時に、再び身体の震えが止まらなくなった。
何て恐ろしい事に首を突っ込んでしまったのだろう。

彼女『・・・』

彼女に優しく手を握られる。
完全にという訳では無いが、震えが少し治まった。

クキカワ『・・・分かった、今から1時間後に向かう。頼むぞ』
オカルト女『・・・』

何処かに連絡しているクキカワ。
その横でオカルト電波少女が、タブレット端末で何かを調べている。

彼女『クキカワ』
クキカワ『・・・の1301号室だ』
オカルト女『教団経営のホテルですね。ここからだと・・・』



ライバル『エレベーターと非常階段の位置は、頭に叩き込んでおいてね』
幼なじみ『・・・了解です』

図面に赤いマジックで注意書きが書かれている。

彼女『・・・クキカワ』
クキカワ『・・・』
彼女『私が言いたい事は分かるわね?』
クキカワ『ああ・・・だが、まずはキミの話を聞いてからだ』
彼女『それもそうね・・・火薬の臭い、それと(中略)に使われる薬剤の臭いがしたわ。これで納得した?』

そんな臭いを嗅ぎ分けられるなんて、常人の域を遥かに超えている。
せめて香水とかシャンプーの香りとかなら女の子らしくて可愛げがあるのに。
どうしてこうなったのだろう。

クキカワ『なるほどな・・・盗聴器だ』
彼女『開いてた窓があったわね、そこから?』
クキカワ『そんなとこだ。最初は時計の音かと思ったが・・・』
彼女『それにしては不自然だった、と』
クキカワ『まあ、な。・・・で、そろそろ少年を解放してやったらどうだ?』
オカルト女『とっくにタップしてますよ?』

『情けないわね』の台詞と共に関節技から解放され、地面に崩れ落ちる。
危うく失禁するところだった。



クキカワ『失礼します、お嬢様』
??『ふわぁ・・・何?』

周囲を見渡してみる。
一般的なビジネスホテルの部屋に比べてかなり広い。
スイートルームというやつだろうか。

クキカワ『お嬢様のファンだという方がおりまして、どうしても会いたいと言って聞かないみたいなのです』
??『あのさぁ・・・常識って言葉、知ってる?そもそも、鍵掛けてたはずだけど・・・』

そんな物、とっくに破壊されている。
物陰で息を潜めている暴君によって。

彼女『・・・』

《同じ目に遭いたい?》とばかりに睨み付けてきたので、ブンブンと首を振る。
本当に広いな、この部屋は。

クキカワ『申し訳ありません・・・!』
??『あー・・・もう。サインだけね』

クキカワが土下座する。
それを見て、ベッドに寝ていた女性が這い出してきた。

??『寝起きだからさ、写真は・・・ヒッ!?』

彼女の《行って》という声を合図に駆け出す。
《会いたかったよ~!ハァハァ・・・》と自分でもどうかと思うような声を出しながら、その女性に襲いかかった。

??『ちょ・・・何!?止めてったら!』
クキカワ『おい、君!』
??『止めてって・・・言ってるでしょう!!』



??『えっと・・・大丈夫?っていうか、私悪くないよね?クキカワ、見てたでしょ?』
クキカワ『・・・』
??『どうして黙ってるの?この変態が襲いかかってきたから、投げ飛ばしただけだよ?』
クキカワ『って、言ってるけど?』

入口の方に視線を投げ掛けた。
その先には・・・

彼女『酷い言い草ね、人の彼に対して。・・・確かに変態かも知れないけど』
ライバル『男は皆そうだって。こんばんは、妹ちゃん』
妹『お姉ちゃん!?それに確か、野球の・・・って事は・・・やっぱり!!』

仰向けに倒れているオレの顔を見て、驚く彼女の妹。
さすがは、チート姉妹。
見事な一本背負いだった。

オカルト女『大丈夫ですか?』

絨毯敷きなので、それ程のダメージは無い。
オレ、彼女、ライバルさん、オカルト電波少女、そして廊下で見張り中の幼なじみは黒いほっかむり付きの衣装を着ていた。
ホテルの入口近くでクキカワの仲間だという女性に渡された物だ。

妹『お姉ちゃん、これ何の・・・痛っ!?』

パァンという音が深夜の部屋に響き渡る。
その男を合図にライバルさんとクキカワが、妹に襲いかかった。

ライバル『ゴメンね』
妹『やだっ・・・止めてッ・・・!』
彼女『観念しなさい』
クキカワ『やれやれ・・・骨肉の争いといった所か。そのシーツで良いぞ』
オカルト女『分かりました』
20/41ページ