ばきメモソルジャー

【買い出しを手伝う】
両手にビニール袋を下げ、事務所へ戻る道を歩く。
隣を歩くオカルト電波少女の顔は冴えない。
多分、オレだって似たような顔をしているだろう。

オカルト女『・・・』

先程、扉の隙間から見えた物。
日本で普通に生活するには、明らかに必要の無い品々ばかりだった。
まず、目に入ったのが黒い箱。
箱の表面にデジタル時計の画面らしきものが確認できたが、表示されるのは現在時刻ではないだろう。
他にもトゲの付いたハンマーのような物や、鍵が何十も束になった物、極めつけはゾンビゲームを3時間以内にクリアすると使えるアレによく似た物まであった。

オカルト女『・・・』

隙間から見えた物だけで、ざっとこんな感じだった。
改めて、オレ達が身を置いているこの組織が普通ではないことを痛感させられる。

オカルト女『あの中・・・』

オカルト電波少女がボソッと口を開いた。
その表情は暗い。
あんな物を見てしまった以上、致し方ないだろう。



と、思いきや。

オカルト女『棚の上にあった瓶、ついにあの薬まで使わないといけないなんて・・・』

そっちかよ。
教団より、このBMSなる組織の方がよほど恐ろしいのではないか。
そんな事を考えていた、その時だった。

『お、少し暗そうだけどマブい姉ちゃん発見!』
『そんな冴えない男ほっといて、オレらとお茶しない~?』

頭の悪そうなナンパ男の集団が現れた。
その数、ざっと5人。

『お、なかなかイイもの持ってるじゃん』
『それじゃ早速!パイ、ター・・・チ!?』
オカルト女『・・・セヤッ!!』

後ろから胸を触ろうとしてきたナンパ男の手を取り、そのまま投げ飛ばした。
地面に叩き付けられ、気絶するナンパ男。

『な・・・何が起こった?』
オカルト女『あ!その・・・大丈夫ですか?』

ここまで上手く決まるとは思っていなかったのだろう。
彼女やライバルさんと違い、実戦経験はあまり豊富ではないようだ。
その証拠に・・・

『んの、アマァァァ!!』

もう一人、横から殴りかかろうとする男がいる事に気付いていない。
考えるよりも先に身体が動いていた。

オカルト女『主人公君!』



吹っ飛ばされ、地面に倒れ込む。
仲間をやられて頭に血が上ったナンパ男のパンチを、モロに喰らってしまったらしい。
だが、危機はこれだけで終わらなかった。

『うう・・・テメェ・・・』

先程投げ飛ばされたナンパ男が起き上がり、後ろからゆっくりとオカルト電波少女に近付いていく。
その手には折り畳みナイフ。
声を出そうとした、次の瞬間だった。

『・・・オグッ!!』
オカルト女『・・・え?』

ナンパ男に紫色の光のような物が浴びせられ、グッタリと動かなくなる。
BMSの誰かか?と思ったが、現れたのは意外な人物だった。

??『・・・神罰!』
『グハアッ!』

もう一人のナンパ男を紫色の光を纏った手刀で一閃。
以前に夢の国(個人的にはパークを出た後がメインイベントの予定だった)で会った、自称神官のクキカワなる不審人物だった。

クキカワ『戦う者・・・全てが敵だぁっ!!』
オカルト女『キャアッ!!』
『な、なんだコイツ・・・グホッ!!』

助けにきてくれたのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
オカルト電波少女の頭を小突いたかと思えば、さらにもう一人のナンパ男に紫色の衝撃波のような物を浴びせている。

クキカワ『平和の為には・・・暴力もいとわないぃぃぃ!!』
『け、警察を・・・ギャアアアァァァ!!』

ついには通行人にまで攻撃し始めた。
完全に見境無しか。
とりあえず・・・

オカルト女『・・・』

立ち上がろうとした所で、頭を抑え付けられた。

クキカワ『我は神!よって貴様らを断罪するぅぅぅ!!』
『に、逃げろー!!』

周りを見てみると、ナンパ男達以外に無関係な通行人が何人も倒れていた。
怒号や悲鳴が飛び交っており、クラクションや爆発音まで混じり始めている。
完全に地獄絵図だ。

クキカワ『罪を償えぇぇぇ!!』
『ぎゃあああぁぁぁ!!』
オカルト女『うう・・・』

オカルト電波少女が苦しそうに這い寄ってくる。
そしてオレに覆い被さるように倒れてきた。



オカルト女『・・・演技だから』

と、小声で一言。



クキカワ『ここまで来れば・・・』
オカルト女『はい・・・』

人気の無い所まで来た。
正面から抱き抱えたオカルト電波少女を降ろす。
あの後、しばらくして

クキカワ『災いは去った・・・おお!よく見たらこの女、なかなかの上物ではないか』
オカルト女『・・・』
クキカワ『ふむ、この少年も意外とよいではないか。実は私は両方イケるのだ・・・では』

と言い残し、オカルト電波少女とオレを連れ去るようにその場を去った。
オカルト電波少女を正面から抱えているので、オレは肩を借りるような形になった。

オカルト女『すみません、助かりました・・・』
クキカワ『ああ・・・少年は大丈夫か?』

思った程の痛みは無かった。
やはり、普段から誰かさんに殴られ慣れている事が幸いしたのだろうか?

オカルト女『血は・・・出ていないようですね』
クキカワ『あの女もたまには役に立つという事か』
??『誰が役に立つって?』

後ろから突然、聞き慣れた声がした。

クキカワ『なんてタイミングだ・・・!貴様はエスパーか?』
彼女『怪しい魔法使いに言われたくは無いわよ・・・うん、折れてはいないようね。貴女は?』

彼女の手がオレの顔や腕、足を素早く確かめる。

オカルト女『いえ、特には・・・すみませんでした』
彼女『気に病む事は無いわ。あの場面ではベストな選択肢よ』
クキカワ『ああ・・・下手に共闘すれば』
彼女『この辺一帯吹き飛んでた可能性があるわね』

なにそれ怖い。



クキカワ『それにしても少年・・・見事なファイテングスピリッツだった』
オカルト女『・・・』
クキカワ『その素晴らしいファイテングスピリッツを、より生かす場所を紹介しよう』
彼女『・・・ちょっ、何唐突に勧誘してるのよ!?』
クキカワ『むっ、なぜ勧誘してると分かったチート女?』
彼女『チート女言うな。夢の国の時とほぼ同じ台詞でしょうが。どうしてくれるのよ、パスポート代?』

そういえばそんな事もあったな。
ちなみにパスポート代出したのオレだけどね。

クキカワ『ああ、それはすまなかったな。とりあえずこれで勘弁してくれ』
彼女『足りない分は後日請求するわ』

神官クキカワの差し出した一万円札をひったくる彼女。
いや、もう一度言うけどパスポート代出したのオレ。

彼女『さ、帰るわよ。何か美味しい物でも食べましょう』
オカルト女『えっと・・・』
クキカワ『ちょっと待て』
彼女『何よ?夕飯食べる金無くなっちゃったの?返さないわよ』

憐れみというよりは、見下している表情の彼女。
高校で初めて会った時とはえらい違いだな。

クキカワ『牛丼一杯分の金はあるし、後はス●カのチャージ分で何とか・・・って、そうではない。耳を貸したまえ』
彼女『え、でも・・・』

オレに対して問い掛けるような視線を送ってきたので、軽く頷く。
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