ばきメモソルジャー

彼女『・・・てやぁっ!』
ライバル『・・・』

ゴオッ!という音と共に、回し蹴りが一閃する。
空気を切り裂く、という表現が相応しい。

彼女『・・・てやぁっ!たあっ!!』
幼なじみ『・・・』

続いては先程の回し蹴りにの後にカカト落としのコンビネーション。
自分に向けた物ではないと分かっていても、思わず身体が硬直してしまう。

オカルト女『はい、OKです』
彼女『ふぅ・・・ありがと』

駆け寄り、タオルとスポーツドリンクを手渡す。
彼女の着ているウェアには、幾つもの小さいセンサーのような物が付けられていた。

クキカワ『とりあえずはこんなところか?』
ライバル『そうね・・・一旦確認してみましょう』
オカルト女『はい』

そして何故か撮影に加わっている、自称神官のクキカワ。
各種機材やスポーツドリンク等、重たい物を上の階の道場へ運ぶのを手伝わされていた。
『今回はどうしても男手が欲しいのよ』との事だったが、もう少し他にいなかったのだろうか。



ライバル『これとこれ、もう一度撮り直しましょう』
オカルト女『はい』

技表が印刷された紙にチェックを入れていく。
先程のディスクに添付されていた資料を、文書にまとめた物だ。

幼なじみ『終わったよー』
彼女『ご苦労様』

そしてオレはというと、彼女が付けているのと同一のセンサー(モーションキャプチャーという物らしい)を身体中に装着させられていた。

ライバル『彼氏君、軽く構えて・・・うん、そんな感じ』
クキカワ『準備OKだ』
オカルト女『それではカウントします。3、2・・・』
彼女『ハッ・・・ヤアッ!』

カウントが0になるやいなや、彼女が掴みかかってくる。
そして次の瞬間には視界が一回転し、マットに・・・

オカルト女『あ・・・』
彼女『ちょっと!受け身取ったらダメでしょ!?』
ライバル『投げられ慣れてるって感じだよね』

そもそも、彼女を始めとしたBMSのメンバー(+神官クキカワ)がどうしてこんな事をしてるのかというと・・・

幼なじみ『もうちょっと早めに言って欲しかったですよね・・・』
ライバル『急に決まったらしいわよ』
クキカワ『今のも一応は使えないか?受け身を取ったパターンで』
オカルト女『いえ・・・投げ抜けのみらしいです』

以前2D格闘ゲームに彼女をモデルにしたキャラがゲスト出演していたらしく、今回は3Dの格闘ゲームに出したいとの事だった。
リアルな格闘技大会が売りという事で、一般によく知られている物やマイナーな物まで世界中の様々なジャンルの格闘家のモーションを収録しホームページやゲーム雑誌には出場キャラクターが紹介されていた。
その後になって、急遽メーカー側からの要望で女性キャラを何名か加える事となったらしい。

幼なじみ『要は、売り上げって事だよね?』
オカルト女『はい・・・』
ライバル『評判が芳しくなかったらしいわよ』
クキカワ『30人以上いて全員男とか、むさ苦しいにも程があるぞ』

確かにそう思う。
1人や2人どころか、昨今の格ゲーでは半分近くが女性キャラというのも珍しくない。



そして一人目として女子プロレスラーの出演が決まったものの、やはりもう一人は欲しいという事になった。
有名どころを何人か当たってはみたものの、予算やらスケジュールやらで都合が付かない。

彼女『もらった!・・・ヤアッ!!』
幼なじみ『うわ、痛そう・・・』

途方に暮れていた所で、他の格闘ゲームに出ている女子高生にモデルがいる事を偶然に聞きつけた開発者が急遽依頼して来た。
・・・というのが、今回の顛末らしい。

ライバル『どう?』
彼女『そうですね・・・これでいこうと思います』
幼なじみ『良かったね』

幼なじみの言葉に頷く。
・・・と、思ったら。

ライバル『じゃあ次は、これいってみましょうか』
彼女『分かりました』

分かりましたじゃねーよ!
と、ツッコミを入れる。
先程の背負い投げも、形が崩れてるという理由(素人目には全く分からなかった)だけで3回もやり直しをするハメになった。

クキカワ『さあ少年、覚悟を決めたまえ』

他人事だと思って。

幼なじみ『下にマット敷いてあるから大丈夫だよ・・・多分』

多分とか言わないで。
リアルに怖いから。



ライバル『うーし!みんなお疲れー』
幼なじみ『はぁ~・・・長かったぁ~・・・』

全ての収録が終わったのは、明け方になってからだった。
何もかも間違っているような気がするが、最早どうでもいい。

ライバル『あー・・・汗かいたー』
彼女『ちょ・・・ここで脱がないで下さい!』

何十回も投げられ、受け身を取る事も許されなかったので(いくらマットが敷いてあるとはいえ)途中から意識が朦朧としてきた。
さすがにヤバいと思ったのか、ライバルさんに後を託し休ませてもらった。

クキカワ『ふぅ・・・で、これから編集か?』
オカルト女『はい』
ライバル『さぁて、ラストスパートいくわよぉ!』

オカルト電波少女とライバルさんが資料やパソコンを持って、道場から出ていった。
二人とも大丈夫なのだろうか。
特にライバルさんは、オレに代わって彼女の技を受け続けていた。

幼なじみ『コンビニで朝御飯買ってきまーす・・・大丈夫なの?』

立ち上がり、同行しようとしたオレを心配そうに見てくる幼なじみ。

クキカワ『私が行こう』
彼女『待ちなさい』
クキカワ『どうした?・・・というか、なぜこちらに殺気を向ける?』
彼女『指示通りにしか動けなかったから疼いてきちゃったのよ。相手しなさい』
クキカワ『だが断る』

彼女が一歩前へ。
自称神官のクキカワは一歩下がる。

彼女『抵抗も無いから逆に物足りなかったし』
クキカワ『・・・考えてもみたまえ』
彼女『何を?』
クキカワ『何かの拍子に身体が密着するかもしれないぞ?キミはそれで良いのか?』
彼女『う・・・』

彼女の瞳に困惑の色が浮かんだ。
頑張れクキカワ。

クキカワ『という訳だ・・・少年』

彼女の前へ差し出されるオレ。
・・・そして。

彼女『せぇぇぇい!!』

謀ったな、クキカワァァァ!!
と断末魔の台詞を残し、オレの身体は宙を舞った。



クキカワ『キミは良い友人だったが、キミの彼女がいけないのだよ。ギャルゲーの主人公として生まれた己の身を呪うがいい』
幼なじみ『ちゃんとガン●ムネタで返してる・・・』



ユリ『とまあ・・・番外編その2です。いかがでしたか?』
なつき『今回は格ゲー編か』
ユリ『はい。実際には専用のスタジオとかで撮影すると思うんですけど、今回はフィクションという事で』

なつき『格ゲーっつーと、まず思い浮かぶのはス●Ⅱだな』
ユリ『ですね。正統派の胴着キャラからボクサー、プロレスラー、軍人。さらには火を吹いたり放電する方まで・・・』
なつき『いたな・・・そんなのも』
ユリ『そしてそして!紅一点の女性キャラです』
なつき『・・・やっぱりそっちか』

ユリ『今でもコ●ケ会場では結構見かけます。扇子を投げる女忍者と並んでコスプレの定番ですね。さあ先生』
なつき『断る』
ユリ『え~・・・』
なつき『自分で着ればいいだろ』
ユリ『嫌ですよ、恥ずかしい・・・アダッ!』

なつき『・・・』
ユリ『グスン・・・前に私が行った時には、ヒゲの男の人がチャイナ服着てキックしてましたけど・・・』
なつき『例のアレか』
ユリ『はい・・・』
なつき『・・・』
ユリ『・・・』

なつき『・・・で、あとエンディングは幾つなんだ?』
ユリ『ええと・・・あと3つですね。いよいよ後半戦です!頑張っていきましょうー』
なつき『どんな危険なネタが出てくることやら・・・』
12/41ページ