ばきメモ2、ばきメモスタジアム

【カーブ】
力の差。
野球において、それが全て力押しを意味するとは限らない。

プロ野球界においては、変化球で相手の打者を翻弄するピッチャーが数多く存在する。
彼女が投げたカーブにオレのバットが虚しく空を切る。
無様に尻餅を付いてしまったオレを見下し罵倒する光景が目に浮かんだ。

『ねえ・・・キミ達ってホントに付き合ってるんだよね?』

ちょっと自信無いです。

『・・・いい?』

オレと幼なじみが同時に頷く。
投じられた球は・・・

『・・・フッ!』

やはり、カーブだった。
狙いが的中したとはいえ、それを簡単に打てる技量は持ち合わせていない。
前回の軌道をイメージし、バットに当てるのが限界だ。
先程と同じように軌道を変えたボールに、バットを・・・

『だ、大丈夫?』

足元に衝撃を感じた。
石でもぶつけられたような感覚。
どうやら、自打球を当ててしまったらしい。

『ごめんなさい・・・プロテクターも着けさせるべきだったわ』
『とりあえず、保健室!』

幼なじみがオレの肩を支える。
彼女も慌てた様子で、反対側の肩を支えようと近付いてきた。

大丈夫だと言う
保健室に行く
文句を言う


【大丈夫だと言う】
大丈夫だ。
少し痛むけど、歩けない程でない。

『で、でも・・・』
『本当に?』

とりあえず一度休憩する為、クーラーボックスの置いてあるベンチへ向かおうとした時だった。

『ダメよ!保健室に連れていきなさい!!』

ネットの向こうから女の人の声が聞こえた。

『話したでしょ?去年それで辞めた人がいるって』

彼女に強い口調で言い聞かせている。
諭すというより、咎めているような感じだ。
年は20代半ばくらいだろうか。
何処かで見たような気もする。

『キミもそうよ。自分の身体のケアもできない人間に野球をやる資格は無いわ』

今度はオレに対して強い口調で話してきた。

『歩けないなら、どっちかが連れていって』
『・・・分かりました。ほら乗って』

彼女が中腰になる。
乗ろうとすると、幼なじみに腕を掴まれた。

『いえ、私が。早く早く』
『待ちなさい・・・貴女には無理よ』
『大丈夫です。重たい器材持って歩いていますので』
『潰れるのが関の山ね。ほら、さっさとして』
『先輩こそ、背負った途端に投げ飛ばしちゃうんじゃないですか?いつもの癖で』
『いつも・・・って、人を暴力女みたいに言わないでくれるかしら?』
『暴力女じゃないですか・・・』
『なんですって!!』


『大した事無くて良かったね』
『ええ・・・一安心だわ』

幸い大した事は無く、湿布を貼ってもらっただけで保健室を後にした。
痛みも今はほとんど無い。
むしろ痛かったのは周囲の視線だった。
すったもんだの末、途中まで彼女に運んでもらう。
続いて幼なじみに背負ってもらったものの、3歩程歩いた所で

『ゴメン・・・やっぱ無理』

となり、再び彼女に背負われ保健室に到着した。

『やはり貴女では無理だったわね』
『うー・・・悔しい。いけると思ったんだけどなー』

むしろ、幼なじみがオレを(潰れずに)背負った事実に驚いた。
土休日を中心にリーグでアルバイトをしていると言っていたが、想像以上にハードなのかもしれない。

『ふう・・・さっきはキツい事言ってゴメンね?私、野球の事になると見境が無くなって』

女子野球界のスター選手だけあって、さすがにオーラがある。
むしろ、オレみたいな一般人にまで言ってくれた事に感謝したい。

『ありがと。半分飲む?』

スポーツドリンクを飲んでる姿も絵になっていた。
差し出されたペットボトルを握ろうとして・・・

『大丈夫です。ちゃんと新しいの買ってきましたから』

未開封のボトルを握らされた。

『さっすが先輩♪』
『変なフラグは阻止しないとね』
『・・・変なフラグって何よ、変なフラグって。貴女達、先輩を何だと思ってるの?』
『『お邪魔虫』』

見事にハモッた。


『ひっどーい!!』
『だってねえ・・・先輩?』
『ええ・・・。それよりも、先輩って呼び方紛らわしくない?』

幼なじみから見たら、2人とも先輩だからな。

『私達はともかく、画面の前の人にとっては分かりづらいかもね。先輩Aと先輩Bじゃ、両方モブっぽいし・・・』
『どっちがAでどっちがBか、って事もありますからね』
『じゃあ・・・《大先輩》は?』
『そう呼ばれる事もあるけど、一応まだ20代だから正直抵抗あるのよね・・・』
『では《ライバル》で・・・』
『ライバル?私そんなキャラじゃないわよ?むしろ序盤の攻略は私無しじゃあり得ないし』

実力はもちろん、集客面でも大きな収入源となってくれる。
もっとも、アップデートで追加されたOB選手を使うという手もあるけど。

ライバル『彼氏君まで酷い!そうやって私の事もポイっと捨てるんだ・・・』
彼女『貴方、まさか・・・』
幼なじみ『あーあ、かわいそう・・・』

どうしてそうなる。

ライバル『いや、まあ冗談だけど・・・なんかもっと別の呼称無いかな?別に《ライバル》でも良いけどさ』
彼女『でもこの前の試合でも、私の投げている時に唯一2塁を踏んだのは貴女です』
幼なじみ『野球に関しては凄いストイックですよね。先輩・・・じゃなく《ライバル》さんは』
ライバル『《野球に関しては》って・・・。まあそれはともかく、自他共に厳しいのは認めるわ。前の前の彼氏ともそれで別れてるし』


ライバル『ここって、《彼女》さんの高校のグラウンド?結構立派だよね』
彼女『何度か甲子園にも出た事があるそうです。今は見る影もありませんが』

内野だけだが屋根付の観客席があり、ナイター用の照明まである。
私立だけあって、寄付金は集まるらしいからな。

幼なじみ『先輩よりも遅い球しか投げられないクセに、休み時間の度にマネージャー兼彼女を膝の上に乗せて、あっちの球をガッチ●チにしているのが今のエースです』
ライバル『若いわね・・・』

ガッチ●チになるのはボールではなくバットだろうと思ったが、さすがに口には出さなかった。

幼なじみ『2人揃って練習に来ない事も多いそうです。野球のバットではなく、下の(以下略)』
彼女『そろそろ自重しなさい・・・』
ライバル『まあ、《彼女》さんは特別だけど・・・。そのエース君とマネージャーさんが、揃って練習来ないってのは気に入らないわね』
彼女『・・・呼び出します?確か、貴女と同じクラスよね?』
幼なじみ『そうですけど・・・あのヤリ●ンエース、前に《ライバル》さんのグラビア記事見ながら、一度お願いしたいなー・・・とかほざいてましたよ?』
彼女『・・・』
幼なじみ『無理矢理赤外線通信させられたので、番号は知ってますけど・・・どうします?呼び出しますか?』
ライバル『番号聞かれた瞬間にぶん殴りそうだから、やめとくわ・・・』


彼女『ところで、今日は?』
ライバル『近くを通りがかったら聞き覚えのある声が聞こえて、それで。少し前までは駅前の喫茶店にいたわ』
幼なじみ『もしかして、彼氏さんとですか?』
ライバル『・・・うん。正確には、元彼だけどね』

うわ・・・ヤブヘビ。

ライバル『その前の彼とはあんな別れ方をしたから、今回は野球してる事を隠して付き合っていたの』
幼なじみ『それ・・・結構無理無いですか?』
ライバル『うーん・・・知らない人は知らないのよ。女子のスポーツって意外と露出少ないから』
彼女『ですね・・・』

オレは何回か観に行った事があるが、野球部に所属しているクラスメイトも(リーグの)存在自体を知らなかった、という事があった。
もっとも、今年に入ってからは校内にリーグのポスター(彼女の写真入り)が貼られていたりする。

ライバル『ちなみに、そっちの露出じゃないわよ?彼氏君?』
幼なじみ『どうして嬉しそうに言うんですか・・・?』
彼女『《ライバル》改め《お邪魔虫》にしようかしら?』
お邪魔虫『ちょっと、止めてよ!ただてさえ彼氏と別れて凹んでるのに・・・』
彼女『それもそうね・・・戻しましょうか』
幼なじみ『そうですね・・・』


幼なじみ『ところで、彼氏さんと別れた理由って何ですか?』

前の前の彼氏とあんな別れ方を・・・とか言っていた。
聞かれたくない事かもしれないが、やはり気になる。

お邪魔虫⇒ライバル『前の前の彼氏については、あまり男の子の前で話す事じゃないから勘弁してね』
幼なじみ『え~・・・』
彼女『聞きたいわ、ね?』

こっちの方を見てくる。
思わず頷いてしまった。

ライバル『いずれ話すかもしれないから、今は勘弁して。・・・彼氏君を一晩貸してくれたら考えても良いけど』
彼女&幼なじみ『『じゃあ、いいです』』
ライバル『・・・早っ。それで今日別れた彼氏なんだけど、野球やってた事隠してたって事までは言ったでしょ?』

でも、幼なじみの言うようにいずれはバレると思う。
野球専門の雑誌以外にも幾つか載ってる位だし。

ライバル『まさか自分の彼女の名前をインターネットで検索する人なんていないでしょ?』
幼なじみ『そうですね。最初から分かってて付き合う人なら、ともかく・・・』
彼女『そ、そうね・・・』

実は一回検索してみたが、ユニフォーム姿の写真以外に何かのコンクールで表彰を受けている時の写真や陸上競技の時の写真、さらには校内で撮ったと思われる写真等々・・・かなりの数が出てきて驚いた。
Dドライブに保存したのは言うまでもない。


ライバル『この前のデートで、たまたま立ち寄った所にストラックアウトがあった訳よ』

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ライバル『こんな感じのボードを狙うアレね。で、彼が7枚くらい当てて有頂天になってたのよ』
幼なじみ『その後の展開って・・・』
ライバル『察しの通りよ。オレが教えてやるからオマエもやってみろ、とか言い出して』
彼女『逆に力の差を見せ付けた訳ですね』

オレがいつもやられている事か。

ライバル『短めのスカート履いてたから、お嬢さん投げって分かるかしら?あんな感じの投げ方で、適当に誤魔化そうと思ったのよ。でも、ボールを手に持った途端・・・』
幼なじみ『スイッチが入っちゃった訳ですね』
ライバル『うん。気が付いた時には、8球目で二枚抜き・・・パーフェクト達成した後だったわ』

それ・・・凄く分かる。
以前、彼女に柔道の乱取りをしないかと誘われた事があった。
柔道といえば寝技だよな・・・と、勝手に期待と股間を膨らませ柔道場へ向かっていった。

彼女『それ・・・プロでもあまり達成できなかったりしますよね?』
ライバル『うん。実は私も8球で達成したのは初めてだったわ』

準備体操を終え、組んだと思った次の瞬間だった。
視界が一回転し、受け身も取れずに畳に叩き付けられた。
体育の授業でやったような技を試すも全く通用せず、逆に一通りの技の実験台となってしまった。

幼なじみ『す、凄い・・・』
ライバル『その後、スピードガンをやろうって事になって』
彼女『さらに力の差を見せ付けた訳ですね』

背は女子の中ではやや高めだが、オレよりは低い。
そんな彼女に全く歯が立たなかった。
最後の一回でオレに華を持たせて終了となったが、わざと倒れたのは明白だった。


ライバル『ストラックアウトって基本コントロール重視でしょ?』
幼なじみ『まあ、そうですね・・・』
ライバル『でもスピードガンになって、今度は本気で投げたわ。パンツ見えるのも気にせずに』
彼女『・・・ちょっと?』
幼なじみ『今、《パンツ》の所で彼の方を見ましたよね?』
ライバル『人の目を見て話すのは当然でしょ?ちなみに、今履いてるのもその時と同じ勝負下着よ』

あ・・・ヤバい。

幼なじみ『あー、体育座りしたー!先輩、やっぱり《お邪魔虫》ですよ!!』
彼女『そうね・・・それと、後で覚悟しておきなさいよ?』

違う意味でもヤバい。

お邪魔虫『話を続けるわね。当然、スピードガンでも圧倒したわ。そして・・・察しの通りよ』
幼なじみ『だからこの前、二日酔いで試合出てなかったんですね』
彼女『貴女にしてはらしくないと思っていましたけど・・・』

勝負下着とやらを履いてるのも、もしかして・・・

お邪魔虫『そ。仲直りできるかなー、と思って。でもダメだった・・・』
幼なじみ『えっと・・・』
お邪魔虫『可哀想って思うのなら、そろそろ戻して?』
彼女『分かりました』
お邪魔虫⇒ライバル『ありがと。どうやって寮に帰ってきたのかすら覚えてなかったわ・・・』

それで少し前、《幼なじみ》が学校を早退した訳か。

幼なじみ『うん。ナイターだったから、学校終わってから行く予定だったけど』
ライバル『ご迷惑をおかけしました・・・』


グラウンド整備を終えた時点で、辺りはすっかり暗くなっていた。

ライバル『さ、好きな物食べて』
幼なじみ『で、でも・・・』

オレ達4人がやって来たのは、最近できたステーキハウス。
量の割りには安い事が売りだが、それでも高校生の身分では頻繁に行けるような店ではない。

彼女『《例の話》するから』
幼なじみ『あ、そうか。えっと・・・じゃあ』
ライバル『ほら、彼氏君も・・・あれ?』
彼女『どうかしました?』
幼なじみ『期間限定、本場ドイツのビールフェア?』
ライバル『うう・・・でも今日は止めとく』


幼なじみ『よ、良かったですね・・・受けてくれて』
彼女『え、ええ・・・一安心だわ』

ステーキを食べながら聞かされた《例の話》・・・それは、来年から女子リーグに新たなチームが参戦するのでGMに就任してほしい。
ただ、GMといっても場合によっては練習の手伝いや用具の整備といった各種雑用もしてもらうとの事だった。

幼なじみ『だ、大学通いながらっていうのは多分無理だと思うからね・・・』
彼女『え、ええ・・・球団事務所の近くに住んでもらう事になると思うわ』

住み込みで働くようなものか。
いや、それは良いんだけど・・・

幼なじみ『わわっ!?』
ライバル『う~・・・男なんてぇ~・・・』
彼女『ちょっ・・・そっちは車道です!』

酔っぱらいの世話を焼く彼女と幼なじみ。
最初は遠慮していた《ライバル》さんだったが、

『ゴメン・・・やっぱり一杯だけ』

と、ビール(期間限定)の中ジョッキを注文。
当然、それだけで済むはずは無かった。

彼女『普段はあまり飲まないんだけど・・・』
幼なじみ『彼氏さんと・・・って、道路で寝ないで下さい!』

これから卒業までの間に色々勉強しなければならない。
もちろん、試合会場にはできる限り足を運ぶ事つもりだ。
・・・だけど。

ライバル『ゴメン・・・もう・・・』
彼女『避けてっ!』
幼なじみ『え・・・?あ・・・いやぁぁぁぁ!!』

まずは、この酔っ払いを送り届けなければ。


ライバル『ユリ君・・・私・・・』

ユリ『ああ・・・ついに・・・アイタタタ!耳を引っ張らないで下さーい!!』
なつき『・・・画面に口付けしようとするな』
ユリ『後でちゃんと拭きますよー・・・』
なつき『拭いてる最中、虚しくならないか?』
ユリ『実は少しだけ・・・あ!』
なつき『どうした?』

??『そうはさせないわ!』
ライバル『あ、あなたは・・・!』

ユリ『あっちゃー・・・余分なフラグ立てちゃったか』
なつき『フラグって・・・』
ユリ『うー悔しい・・・また日を改めて一からやり直しです』
なつき『そ、そうか・・・まあ程々にな』

ユリ『彼女は《ばきメモスタジアム》から新登場したキャラクターです』
なつき『人気実力を兼ね備えた女子野球界きってのスター選手・・・なるほどな』
ユリ『ちなみに、これが予約特典のクオカードです』
なつき『いやいや・・・アウトだろ、これ』
ユリ『どうしてですか?』
なつき『ユニフォームの前がはだけて、普通に●ラ見えてる』
ユリ『あ、だから実在する女子リーグのユニフォームじゃないんですね。さっすが先生、頭良い~』
なつき『・・・』


【保健室に行く】
彼女『困ったわね・・・』
幼なじみ『どうしましょうか?』

保健室に来たまでは良かったが、肝心の養護教諭が不在だった。
しかも鍵がかかっている為、中に入る事もできない。

彼女『職員室で鍵を借りてくるわ』

そう言い残し、早足で職員室の方に向かっていった。

幼なじみ『行っちゃった・・・あれ、誰か来る』


『ちょうど入れ違いになっちゃったね』

あの後、彼女と入れ替わるような形で保健室の養護教諭が戻ってきた。
幸い怪我自体は大した事はなく、湿布を貼ってもらい保健室を後にした。

『あれ?鍵借りに行ったんじゃ・・・』

野球場へ戻ると、彼女が一人でバックネット付近に転がったボールを拾い集めていた。
投球練習してたのだろうか?

『手伝いますよ、先輩』
『あ・・・うん。ありがと』


『時間経っちゃったし、もう一度仕切り直しって事で大丈夫ですか?』

幼なじみの言葉に、オレと彼女が同時に頷く。
そして、バットを構えた。

『・・・ンッ!』

綺麗なフォームから放たれた直球にバットを合わせ・・・

『わ・・・』

芯で捉えた球は、勢い良くレフト方向へ転がっていった。

『あっちゃー・・・やっぱ、お姉ちゃんみたいにはいかないねー・・・』

マウンドで舌を出す彼女(?)。
声色こそ彼女の物だが、表情や言葉使いに違和感を感じる。
それに、今・・・

『何やってるのよ、もう!』
『あ、お姉ちゃん』

彼女がもう一人現れた。
救急箱を抱えている。

『お姉ちゃんじゃないわよ!生徒会室に救急箱あったの思い出して借りてきたのに・・・』
『生徒会室にあるんだ、救急箱』
『生徒会たるもの、いつどんな事態が起きても対応できるようにね』

と、いうのは建前で実際には彼女から暴力行為を受けてもすぐに治療できるから・・・というのが本当の理由。

『・・・ちょっと?』
『プッ・・・アハハハハ・・・そうだよね、お姉ちゃん嫉妬深いもんね・・・あー、おかしい・・・』

笑い転げている、もう一人の彼女。
これは一体・・・?


幼なじみ『えっと・・・つまり』
妹『そ、双子の妹。身長体重スリーサイズ、全て一緒』

海外に留学中で、たまに日本に帰ってくるらしい。

彼女『明日って聞いてたのよ。しかも予備のユニフォーム勝手に持ち出して・・・』
妹『時差があると、結構ゴチャゴチャになっちゃうんだよね』
彼女『まあ・・・私と違って、大雑把な性格だからね』
妹『おおらか、って言って欲しかったな。《幼なじみ》ちゃんとは前に会った事あるよね?』
幼なじみ『はい・・・あまりにソックリだったので、分身の術でも使っているのかと思いました』

確かに、彼女ならやりかねない。

彼女『あなたね・・・私を何だと思っているのよ?』

最強の女戦士?
いや、狂気で戦場を支配する女武者か?

妹『どっちも正解』
彼女『正解、じゃないわよ。まとめて刀の錆にされたい?』
幼なじみ『意外にノリノリだね・・・』

考えてみたら、彼女の妹と初対面なのは自分だけだ。
ちゃんと自己紹介を・・・

妹『あ、そんな改まらなくて大丈夫だよ。2回程会った事あるし』
彼女『もしかして・・・』

以前、何故か彼女と会話が噛み合わない事があった。
先週見た映画の話を振ってみたが、全く乗って来なかった。
あまり面白くなかったのかな・・・と思い別の話題に変え、それ以降その映画の話をするのは止めてそれっきりだ。

幼なじみ『それって、ホラー映画でしょ?私もだけど、先輩もそういうのダメだから』

確か、髪の長い女が画面から出てくる物語の続編だった。
ペアで前売り券を買うと限定ストラップが貰えるから・・・と、彼女の方から誘われた。

彼女『さすがにそれだけは行かないわ、例え貴方に誘われたとしても・・・』
幼なじみ『ですよねー?その話を聞いて、何かおかしいとは思ってましたけど』

って事は、つまり。

妹『そう、私。大事に使ってるよ?』

スマホに繋がれた髪の長い女のストラップ。
服の部分は夜光るようになっているらしい。

彼女『全く・・・』
妹『えへへ。素敵な思い出をありがと★』


幼なじみ『妹さんって、野球経験者だったりします?』
妹『いや、全然。どうして?』
幼なじみ『先輩ほどでは無かったですけど、明らかに野球経験者の球でしたよ。110は出てましたし・・・』

確かに。
彼女が異常なのであって、さっきの球も女子リーグでは充分過ぎるレベルだった。
彼女の凄まじい直球を見ていたから、たまたま打てただけの話だ。

妹『暇だったから、動画のサイト見てたらお姉ちゃんの試合が出てきて。それでフォーム真似して』
幼なじみ『そ、それだけで?』
妹『うん。さっき話したと思うけど、身長体重スリーサイズその他諸々全て一緒だから』

単にフォームを真似しただけであれだけの球は投げられないと思う。
ウチの高校の野球部なんか、そういうのばっかりだ。

幼なじみ『どっかで見た構えばっかりなんだよね・・・』
妹『イ●ローさんとか?』
幼なじみ『はい。投げる方だと、トルネードのあの人とか』
彼女『そのまま転倒してたわね・・・』

得点入った時には、皆で空を指差してたな。
関西の方の球団のアレだっけ?

幼なじみ『そうそう。審判に注意された挙げ句、試合も逆転負け』
妹『踏んだり蹴ったりだね』
彼女『勉強にしても運動にしても、元々この娘の方ができたのよ。常に比べられてきてね・・・』
妹『うん。その内そういうのが嫌になっちゃって、わざと悪い点取ってみたりサボってみたり』

大人に嫌気がさしたという事だろうか?

妹『まあ、そんな感じ。向こうに親戚いたし、留学したいっていったらあっさり許可してくれたわね』
幼なじみ『・・・』
彼女『採寸・・・は必要無いか』
妹『学校通うつもりは無いけど?』
彼女『じゃなくて』
幼なじみ『ああ・・・ソッチの』

何か、話に付いていけない。

妹『うーん・・・一応、採寸お願いできる?』
彼女『向こうで食べ過ぎた?』
妹『じゃなくて・・・ほら』

じーっと、オレの事を見ている。

彼女『彼がどうかしたの?』
妹『む・ね★』

真っ赤になった彼女が妹を小突き、何故かオレまで殴られた。

幼なじみ『そういや先輩がリーグ入ったの、主人公君と付き合い始めて結構経ってからだもんね・・・』


それから数日後。

??『ヤッホー、久しぶり★』

制服姿の彼女。
いや、卒業しているのでそれはおかしい。
しかもよく見ると髪が短い。
つまり・・・

妹『そう、私。お姉ちゃんと同じチームでプレーする予定なんだけど、そのままだと見分けがつかないからって・・・』

数日前の話だ。
彼女の妹も交えて軽く練習した後、彼女がオレにあるお願いをしてきた。
女子リーグに新たなチームが参戦するので、GMをやってほしい。
ただ・・・GMといっても運営ばかりではなく、練習の手伝いや試合会場の設営といった各種雑用もやってもらうという事だった。

妹『向こうで独立リーグのスタッフやってる友達がいるんだけど、それこそ休む暇も無いみたい』

数日前のアレは、テストを兼ねていたらしい。
単に練習に付き合わせるより、一打席勝負をしてその後無茶な練習に付き合わせる・・・という流れの方が(彼女の性格を考えると)自然に見える、とあのような演出が組まれたそうだ。

妹『でもさー、ちょっと横暴だよね?幾ら同じ顔だからって・・・』

確かに。
でも、これはこれで結構似合ってると思う。

妹『ありがと。制服は?』

一回転する。
あ、今ちょっと見えた。


妹『いきなりビンタするのって、ちょっと酷いって思うな・・・』

もちろんビンタされたのは妹ではなく、このオレだ。
大晦日の蝶●を彷彿させる一撃だった。

彼女『だって・・・デレデレしてたから』
妹『そりゃあ男の子だもん、ね?』

うん。
白・・・やっぱ白だよね。

彼女『・・・何が?』
妹『お姉ちゃん、このストラップの貞●みたいになってるよ』

髪がブワッと広がっており、見る者全てに恐怖を与える。
画面から出てくるのではなく、モニター自体を破壊して登場しそうだ。

妹『火吹いたりしてね』
彼女『うっさいわね・・・こうしてやる!!』
妹『うわ・・・くの一みたい』

髪で首を絞められる。
やっぱりフィクションの恐怖よりも現実の方が怖いよね、うん。



??『私の事・・・妹だと思っていた?』

ユリ『それってどういう・・・ま、まさか!うわーっ、そう来るなんてぇー・・・』
なつき『楽しそうだな』
ユリ『いや、これはビックリですよ。まさか《彼女》が《妹》の振りをしてたなんて・・・』
なつき『それはそうと・・・これ、オマエのだろ』
ユリ『あ・・・!それはまさしく《ばきメモスタジアム》予約特典の!!それを何処で?』
なつき『職員室』
ユリ『あ、そういえば前に・・・』

なつき『忘れるならせめて他のにしろよ。よりによって、素っ裸でシャワー浴びてる図柄とか・・・』
ユリ『あー、良かったー!あちこち探し回ったりして夜も眠れなかったんです・・・』
なつき『シャワー浴びてるのは・・・《彼女》か』
ユリ『お、ようやく覚えましたね★』

なつき『しつこい程に聞かされたからな。さすがに大事な所は湯気で隠されてるのか』
ユリ『心の眼で見るんです』
なつき『あっそ』
ユリ『冷たいなー・・・あれ?』
なつき『今度はどうした?』
ユリ『ちょうど腰の辺り・・・湯気で隠されてるすぐ横にホクロがあります』
なつき『印刷汚れとかじゃないのか?』

ユリ『検索検索・・・いや、全てありますね』
なつき『汚れじゃないのが確定だとしたら、どうなるんだ?』
ユリ『実はですね・・・と、これ以上は長くなりそうなので《レンレン★カフェ》でお話しします』
なつき『多分、その時には忘れてると思うけどな』
ユリ『え~・・・ひどい』

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