ばきメモ2、ばきメモスタジアム

【ストレート】
見た目と違い、彼女は力押しを好む事が多い。
つまり、次はストレートだ。
そして、3球目が放たれる。

『・・・ッ!』

やはりストレートだ。
気持ち早めにバットを出す。

『・・・わ』

ガスッという擦ったような音の後、ガッシャーン!という大きな音が真後ろから聞こえてきた。
手が痺れて、思わずバットを落としてしまう。

『だ、大丈夫?つーか、凄いねー・・・当てるなんて』

転がってきた球を拾っている。
女子でもこのレベルか。
プロ、恐るべし。

『いや・・・あの人は特別だから。この前なんか完全試合達成してたし』
『次・・・良いかしら?』

さっきよりもさらに苛立った様子の彼女。
何回か手を振ってからバットを拾い上げ、構えた。
次はおそらく・・・

【選択肢】
ストレート
カーブ


【ストレート】
次もストレートだろう。
そう思って構えた。
そして4球目。

『・・・ッ!』

やはり直球だった。
しかもさっきと全く同じコース。
タイミングは先程と同じ、そして位置は少し上に・・・

『・・・凄い』

会心の当たりだった。
真芯で捉えた球はホームランにこそならなかったものの、フェンス手前に落ちて跳ね返った。

『やったね!ほんとキミって、やればできるよね!凄い、凄過ぎっ!!』

幼なじみがオレの手を取ってブンブン振り回す。
ところが。

『凄いですよね・・・先輩?』
『あり得ない・・・あり得ないわ・・・』

マウンドでガタガタと震えているオレの彼女。
不吉なオーラを漂わせている。

『そう・・・まだまだ練習不足という事なのね』
『あの・・・私、これから用事が』
『待・ち・な・さ・い』
『・・・ヒッ!?』
『貴女は私の専属スタッフのはずよ?』
『い、いえ・・・一応リーグのスタッフで』

前に話していた《新しいバイト》はこれの事だったのか。
よし、後は女子同士で仲良く・・・

『『ど・こ・行・く・の?』』

とは、ならなかった。

諦めて練習を手伝う


『足、ガクガクだよぉ・・・』
『ほら、ちゃんと持つ』

彼女の肩を氷の入った袋で冷やす。
あれからオレと幼なじみは、彼女の特訓に付き合わされた。

『ふえ~ん・・・』
『ま、こんな物かしらね』

走り込みから始まり、投げ込み、バント処理、牽制、ノック、素振り、ベースラン等を延々とこなしていた。
オレ達2人は走り込みに付き合わされた後、球拾い、キャッチボールの相手、ノッカー等を務め、とうに限界を超えている。

『そろそろかしら・・・』
『あ、例の話ですか?』

例の話?

『ここでも良いけど・・・もう一度、グラウンドに出て』
『え~、歩けないよ~。そうだ・・・キミ、おんぶして?』

いや・・・オレも無理だから。

外に出る


『ったく・・・』

彼女に引きずられるような感じで、オレと幼なじみはグラウンドに出た。
既に照明は消えており、真っ暗だ。

『・・・ほら』

少し歩いた所でグラウンドに寝かされる。
このまま朝まで動きたくない。

『上、見て』

・・・上?
うつ伏せから仰向けの体勢になり、夜空を見上げた。
そこには・・・

『・・・凄い!凄く綺麗!!』

満天の星空が輝いていた。
しばし、見とれてしまう。

『今の時間がね、一番綺麗に見えるのよ・・・私も失礼するわね』
『あー!どうして間に入るんですかー?普通男一人だったら、彼を真ん中にするでしょう!?』
『知らないわよ。・・・で、良いかしら?』
『ああ・・・はい』

不満気に返事する幼なじみ。
そして、彼女が話し始めた。

『来年からなんだけど・・・』

要約はこうだ。
来年から、女子リーグに新たなチームが参戦する。
そこのGMに就任してほしい。

『もちろん、私達も最大限のサポートはするわ』
『うん。きっとキミなら・・・って、先輩近すぎ!』
『良いでしょ、彼女なんだから。ちょっ・・・引っ張らないでよ!』

芝生の感触が心地良い。
改めて星空を見上げる。



オレの答えは、既に決まっていた。




オカルト女『今日の入場者数を発表するわ』
ライバル『お疲れ、ユリ君。勝つには勝ったけど・・・もう少しお客さんが増えてくれると嬉しいかな?』

ユリ『あれ?どうしてお客さんこんなに少ないんだろ・・・』
なつき『これが《ばきメモスタジアム》本編か』
ユリ『はい。女子リーグとコラボした・・・あ!チケットの値段上げたままだった』
なつき『色々やる事多いんだな』
ユリ『そうですね。チケットの価格設定以外にも、営業活動に練習指示、それとスタッフの教育とか・・・』

なつき『なんか面倒臭そうだな・・・。遥は出てるのか?』
ユリ『遥さんですね・・・はい』
なつき『ちびキャラか。パラメーターは・・・なるほどな』
ユリ『そして、これが私です』
なつき『顔は全く一緒だな。違うのは髪型だけか』
ユリ『肖像権とか色々あるらしくて・・・』
なつき『なるほどな・・・』

ユリ『最初の予定では、対戦相手の選手達も能力が変わったり引退したりするはずだったんですけど・・・』
なつき『能力が変化するのは自チームの選手だけか』
ユリ『そうですね。実在する女子リーグの選手達は年二回のアップデートで対応するみたいです』

なつき『この《宣島章葉(せんじましょうは)》って誰だ?妙にパラメーター高いけど』
ユリ『ああ、これは萱島さんですね。NPB入りしたり引退した選手は、その時の能力のままOBキャラとして残ります』
なつき『自チームで使えるって訳か』
ユリ『はい。彼女は第一回のアップデートで追加されたOBキャラで、ボーナスキャラみたいな存在ですね』
なつき『確かに、成績は群を抜いてるな』
ユリ『それに《人気》っていうマスクデータがあるんですけど、おそらく彼女は最高ランクだと思います。《宣島弁当》とか《章葉の抱き枕カバー》を開発するだけで、資金がガッポガッポですね』
なつき『抱き枕カバーって・・・』
ユリ『ニャンニャンするんじゃないですか?《章葉た~ん》って』
なつき『実際にニャンニャンしてたけどな』
ユリ『あ・・・』



【カーブ】
次は・・・カーブか?
きっとそうだ。
頭の中にイメージを描く。

『・・・あ』

違った。
直球だった。
完全に振り遅れてしまう。

『うーん・・・惜しかったね。もう一打席いきましょうか?』

幼なじみがボールを返そうとする。
ふと、その手が止まった。

『えっと・・・先輩?』
『何よそのみっともないスイング・・・キ●タ●付いてんの?』
『・・・それ、女の子が言っていい台詞じゃないですよ』

確かに。
それに・・・見た事、あるよね?

『そんな事言ってんじゃ・・・ないわよっ!!』

18メートルの距離を疾走してきた彼女の飛び膝蹴り(さすがにスパイクで蹴るのは自重したらしい)が炸裂する。
吹っ飛ばされながら、冷静かつ下劣なツッコミを入れた事を心の底から後悔した。

『ごめん・・・さすがに擁護できないや。じゃあね』

そして、オレと(修羅と化した)彼女だけが残された。

諦めて運命を受け入れる


次の日。

『おっはよー!えっと・・・大変だったね』

あの後オレは、特訓という名のシゴキを受けた。
腐りきった根性を鍛え直すという名目で、走り込みや千本ノック、さらには組み手にまで付き合わされた。

『顔・・・ス●Ⅱの負けた時みたいになってるよ?』

地味に嫌な例えだ。
横に彼女の顔(もちろん無傷)があって

『全ての男は私にひざまづくのよ!』

とか言っている光景が目に浮かぶ。

『例の話、受けてくれるんだね。良かった・・・』

グラウンド整備を終え、身も心も限界をとうに超えた状態のオレに彼女が《あるお願い》をしてきた。
来年から女子リーグに新たなチームが参戦するので、GMに就任してほしい。
ただGMと言っても、場合によっては練習の手伝いや雑用等のサポートもしてもらうかもしれないとの事だった。

『ネタバレしちゃうと、テストも兼ねてたんだって。結構すぐ辞めちゃう人多いんだよね』

グラウンド整備のアルバイトで雇った人が、当日来なかった・・・という話を、缶コーヒーのCMにも出た某用具係の人が書いた本で読んだ気がする。

『いい加減な気持ちでやられると困るんだよね。結局私や他の人に回ってくる訳だし』

キャンプ先で鰻(うなぎ)を採った、という記事がスポーツ新聞に載ったりもした。
今は違う球団でコーチを務めているらしい。

『まあ、キミなら大丈夫だと思ってたけどね。どんだけ殴られても蹴られてもぶん投げられてもゲームでしか見た事無い技喰らっても、何ともないもん』

実際に格ゲーにもゲスト出演しているからな。
よく生きてるよな・・・自分。

話を続ける


『来年からは私も選手として参加する予定だから・・・あ、まだ言っちゃいけないんだった』

《内緒ね》と言われ、軽く頷く。
でも、いくら幼なじみがスポーツ万能とはいっても大丈夫なのだろうか。
昨日、彼女が投げていた凄まじい球が頭によぎる。

『昨日も言ったかもしれないけど、あの人は特別だから。多分・・・何やってもトップレベル』

弱点と言えば・・・怖い話が苦手な事くらいか。
ただ、前に映画を見に行った時は彼女の方から怪談映画を見ようと誘われた事もあった。

『それって多分・・・まあ良いや。先輩はともかく、他の選手も女子のトップレベルな訳だからね。簡単にはいかないと思う』

壁にぶつかる事も多いだろう。
そしてそれは、自分で乗り越えるしかない。

『不安はあるけど・・・だからこそ、キミがいてくれると心強いかな?それに』

そこまで言って、オレの手を握ってきた。
彼女以外の女性の手を握るのは久しぶりだ。
その感触に・・・

『まだキミの事・・・ヒッ!?』

反射的に手が離される。
一瞬前まで手が繋がれていたその空間を手刀が切り裂いた。
近くを飛んでいた蝿が真っ二つになって転がっている。
こんな事ができるのは一人しかいない。

『ごきげんよう』
『おはようございます、先輩。昨日はテスト、お疲れ様でした』
『ありがとう。誰かさんが手伝ってくれれば、もっとスムーズに進んだのだけど・・・』
『殴る蹴るの手伝いなんて、私にはとても・・・』

逃げようとする。
が、二人に肩を掴まれた。
オレの肩を掴んだまま、笑顔の罵り合いは続く。

『見ていたのなら、手伝ってくれても良いんじゃないかしら?』
『いえいえ。先輩の加虐趣味、じゃなくて・・・愛情表現の邪魔をするなんて、私にはとても』

┏自┓
女vs幼

今の状況、簡単に表すとこんな感じ。

周囲の視線に晒されつつ学校へ


『私達は賛成だったんだけど』
『他の選手を納得させるには、一応根拠が必要だったの』

彼>自<幼

↑こんな感じで腕を取られ、学校への道を歩く。
周りの視線が痛いだけでなく、歩き辛い。

『女子野球界で有名な人がいて、その人も移籍してくれるらしいんだけど・・・知ってるかな?』

幼なじみから渡された雑誌を見てみる。
指定されたページをめくると《美人過ぎる野球選手》というタイトルのインタビューが載っていた。
結構好みかも・・・

『あー、私の雑誌!』
『ごめんなさい、不埒な事を考えていたみたいだったから・・・』

腕を捻り上げられ、雑誌を落としてしまった。
慌てて拾い上げ、埃を払っている。

『もー!っていうか、先輩の場合は《DV過ぎる野球選手》ですよね?』
『・・・では貴女は《無個性過ぎる野球選手》ね』

とりあえず、関節極めながら睨み合うの止めましょうよ。
そろそろ意識飛びそうだから。



幼なじみ『うわーん!またお尻触られたー!!』
ライバル『私なんてよろけたフリして胸触られたわ!何とかしてよ!!』
彼女『お客さん同士喧嘩していたけど、スタッフ誰も止めようとしなかったわ。次は私が黙らせて良いかしら?』
オカルト女『苦情の件数が明らかに多いわ。ユリ君、すぐに《スタッフ教育》をして』

なつき『なんか・・・大変だな』
ユリ『そうですね・・・』
なつき『って《スタッフ教育》しないのか?』
ユリ『はい。ゾンビゲーのナイフクリアみたいな物です』
なつき『そういう縛りか』
ユリ『エンディング一通り見たんで挑戦してみたんですけど、やっぱ難しいですね。ちなみに私は、縛るのも縛られるのもどっちも好きですよ?』
なつき『・・・』







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