ばきメモ2、ばきメモスタジアム

18メートルとちょっと。
オレと彼女はその距離で相対していた。

『今日こそ息の根を止めてあげるわ・・・』

いきなり物騒な事を言う。
実際に息の根を止められそうになった経験もあるので、洒落になってない。

『力の差を思い知りなさい!』

今まで散々思い知らされてきました。
すんごく今さらだな・・・とゲンナリしていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

『・・・あーのーさー!早くしてくれませんかぁ?こっちは今日、予定キャンセルしてるんですけどぉ?』

苛立った声の幼なじみ。
キャッチャーの防具を着けている。

『予定が無くなったのなら、別に急ぐ必要は無いでしょう?』
『だーかーらー!ったく、腹立つなぁ・・・まあ、キミも一緒だったから別に良いけど』

マスクの下から笑顔が覗く。
久しぶりに身体を動かすのも良いかもしれない。

『・・・良いかしら?』
『オッケーです。さ、構えて』

幼なじみに促され、バットを構える。
そして、彼女が振りかぶった。

バットを構える
すっ飛ばして選択肢へ



なに・・・今の?
ボールが放たれたと思った次の瞬間には、幼なじみの構えるミットに突き刺さっていた。

『うーん・・・今ので130ちょいってとこかな?やっぱ凄いねー』

山なりのボールで返球しながら呟く。
そんな球を難なくキャッチする幼なじみも相当凄いと思うけど。

『あ、一応私もスポーツ万能って設定だから。ひょっとして忘れてた?』

そういえばそうだった。
初代ばきメモでは、幼なじみが体操服姿の一枚絵とかもあった。

『でしょでしょ?予約特典のクオカードにもなったんだよ。・・・まあ、ほとんどの人は水着姿のカードが貰える店で予約したらしいけどね』

無理矢理谷間作らされてたアレか。

『あー、そういう事言う?デリカシー無いなぁ・・・』
『ねえ・・・判定は?』
『ああ、そっか。ストライクストライク!』

キャッチャー兼審判役の幼なじみが、やや大きめの声で言った。

彼女からのメールを思い出してみる



発端は今朝、彼女から来たメールだった。

『放課後、野球場に来て』

オレの彼女、一学年先輩のスーパーフルスペック(中略)美少女は現在、野球の女子リーグに所属している。
ソフト部に所属する友人に誘われ、トライアウトを受けたら彼女だけ受かってしまった・・・という、芸能界ではよく聞く設定だ。
有名大学に進学するのが当然と思われた彼女が野球の女子リーグに・・・という事で、教職員の中には反対する者も多かったらしい。
だが、一緒に受験した友人の為・・・何よりも自分自身の新たな可能性を見出だす為、反対を押し切り入団した。

『ちょっと握り方やフォーム教えただけでコレだよ?』

相変わらずのスーパースペックだ。
ちなみに友人は大学でソフトボールを続けており、将来は実業団のチームに入るのを目標としているらしい。
卒業して以来一度も会ってないものの、メールは時折するようになったと聞いた。

『打てる?』

正直、自信無い。
ウチの野球部のエース(もちろん男子)より速いんじゃないか?

『・・・当たり前でしょ?あんなのと一緒にしないで』

幼なじみの刺々しい口調に驚く。
こんなキャラだったっけ?

『いや、少なくとも前作(ばきメモ2)までは和やかキャラで通してるよ。私だけは爆弾が付かない仕様だし』

爆弾、ね・・・。
あれ、どうして目当てじゃない女の子のまで処理しなければならないのかな?

『そういうゲームなんでしょ?だからって私の事だけほったらかしって、酷すぎると思わない?』

どの攻略サイト見ても、そう書いてあるからな。

『潰してやる・・・掲示板にイヤガラセの書き込みしてやる・・・じゃ、なくて!その、野球部のチャラいエースの話』

そういえば、幼なじみとは同じクラスだった。

『そうそう、それでマネージャーの娘も同じクラスなの。ポニーテールで、ちょっと訛ってる・・・』

初代ばきメモから登場しているけど、攻略不可な彼女の事か。
一部に熱狂的なファンがいるらしいな。

さらに話を聞く


『でね。休み時間の度にイチャイチャベタベタ・・・』

あの2人、いつの間にそんな関係に?

『膝の上に乗っちゃってさ・・・あれ男の方、絶対●●してるよね?』

こらこら、●●とか言っちゃいけません。

『いちいちうるさいなぁ・・・。それを近くの席でやられてごらんよ。そのまま2人でトイレ行って、次の休み時間まで帰ってこない事もあるし・・・』
『幸せそうね』
『周囲はドン引きだよ。気が付いた時には、カカトが机に・・・』

この前、隣のクラスから叫び声ともの凄い音がしたのはそういう事だったのか。
そして今朝、倉庫裏にあった無惨に破壊された机も・・・

『だからさ、キミはどっち選んでも尻に敷かれてたと思うよ』
『そういう運命なのね・・・』

だったら、オカルト電波少女(人気投票第2位)に・・・

『『それはダメ!!』』

見事にハモった。

『大体、何であんなのが私より上なのよ!?多少見てくれは良いかもしれないけど・・・普段の発言とか完全にキチ●イでしょ、キチ●イ!』
『放送禁止用語はやめなさい!!それに、中の人が超有名な人っていうのもポイント高いと思うわ』

お互いに危険な台詞の応酬が始まった。
早く何とかしなければ。

『それはあるかもしれないけど・・・リアルであんなのいたら困るでしょ?』
『確かに、あまり関わりたくはないわね・・・でもこれはゲームよ?』
『残念ながらね・・・ああ、かったるい』

ゲームキャラにあるまじき発言だ。
そろそろ止めなければ。

『先輩が人気あるのは分かってたけど、それでも2位は堅いと思っていた訳よ。だけどフタを開けたら?4位と僅差で何とか3位。何よコレ?』
『良かったじゃないの。首の皮一枚繋がって』
『ムッキー!自分はぶっちぎりの1位だからって、余裕綽々の態度がムカつくー!!』

何か、幼なじみのキャラ変わり過ぎじゃないか?

『ああ?だったら私のルート入れよ!?ったく、どいつもコイツも・・・』
『ほ、ほら・・・組織票って事もあるかもしれないし・・・ね?』
『当然、私も最初はそれを疑いましたよ。2●ゃんとか見てみたんですけど、そういった痕跡は一切無くて』
『ツ●ッターとかフェ●スブックは?』
『それもさっぱりです。とりあえず、私のコミュニティが無かったので作っておきましたけど・・・』

ギャルゲーキャラにあるまじき発言を繰り返す女二人組。

止める機会を伺う


幼なじみによる罵詈雑言は、延々と続いていた。

『ルート入った奴全員呪われろ!そうだ、pi●ivで低評価付けまくって・・・』
『せめてタグ消す位にしなさい』
『ニ●動でやろうとしたらロックされてて・・・あと、胸が私よりあるっていうのも地味に腹立つ!おまけにラッキースケベまで!!』
『個別ルートに入ってすぐよね?押し倒すような態勢で・・・』
『あれ絶対わざとですよ。主人公の《結構あるんだな・・・》って台詞がキモいキモい!!』

長引きそうなので、オカルト電波少女について考えてみる。
学年はオレと同じで、クラスは1年の時(本編開始前)のみ一緒。

『さらには部屋に帰ってから《手にはまだ、あの時の感触が・・・》だとさ。さっさと●●って寝ろ!』
『ちゃんと攻略はしてるのね。偉いわ』
『敵情視察って言って下さい。あーあ、私だったら満足させてあげるのになぁ・・・』

校内でも怪しいほっかむりとマントを着用し、水晶や各種オカルトグッズを持ち歩く。
生徒会にも要注意人物としてマークされており、序盤は会話すら成立しない事も多い。

『いくら家が近所だからって、それは止めなさい。コンシューマーで発売できなくなるわよ』
『いいもん、別に・・・』

だがその分、(色々あって)終盤で真面目なキャラになった時とのギャップの差にグッとくるのかもしれない。
ギャップ萌え~・・・みたいな?

『・・・キミに言われると余計に腹立つんだけど?』
『・・・次、顔面狙っていいかしら?』

女二人の目が光る。
怖い。
夢に出てきそうな程に。

『あーあ・・・私もほっかむりとマント着けようかな?』
『校則違反だから止めなさい。で、そろそろ2球目良いかしら?』
『そうですね・・・。帰ってから枕を濡らす事にします』

トボトボとキャッチャーの位置へ戻っていく幼なじみ。
彼女もマウンドへ戻り、精神統一する。

『さ、構えて』

幼なじみの言葉に軽く頷く。
精神統一を終えた彼女がこちらを見据えてくる。
これがバトルだったら、次の瞬間に動かないと組み伏せられて万事休すだ。

『・・・フッ!』

2球目が放たれた。



これは・・・

バットを振る


これは・・・1球目より明らかに遅い。
これなら打てる!
そう思い、バットを出した次の瞬間。

『よっ・・・と』

ボールが突然軌道を変えた。
オレのバットから逃げるかのように曲がって、幼なじみのミットに収まる。
これは、もしかして・・・

『そう、カーブ。テレビの中継で見るのと全然違うでしょ?』

確かに。
女ダ●ビッシュって呼ばれる日も、そう遠くないと思う。

『最近は《掃除機》って呼ばれる事も多いらしいけどね』

掃除機?
確かに、何回か押し当てられた事はあったけど・・・

『キミ、よく生きてるよね・・・。じゃなくて、離れた所でお互いジャンプするでしょ?』
『ちょっ・・・その話は』
『次の瞬間には、ギュイーンって吸い込まれて地面にベチャッ!お団子頭の中華娘もビックリの投げ間合いだよ』

だから掃除機なのか。

『他にもね・・・ジャンピングアッパーが上昇中完全無敵なのは当然として、飛び蹴りを放つ技があるんだけど、それも着地寸前まで無敵なの』
『それは・・・開発者もやり過ぎたって、ブログで言ってたわ』
『それにそれに!通常技だって判定がやたら強い上に、他の通常技でほとんどキャンセル可能だから適当に暴れるだけでもオッケー』

なんだそのチートキャラ。

『後はね・・・あ』
『それ以上言うと、彼がどうなっても知らないわよ!?』

いつの間にか背後に近付いてきた彼女に、首を極められる。
忍者ゲームの主人公もビックリだ。

『凄い凄い!それ、新しい技に使えるんじゃない?』
『もし、次回のアップデートで追加されてたら・・・覚えてなさいよ?』

・・・使ってるのかよ!?
そうツッコんだ途端、腕を取られる。
そして、地面に投げ捨てられた。

『あ、ちゃんと受け身取ってる』

起き上がる


状況を整理してみる。
現在のカウントは・・・

B●●●
S○○
O●●

2ストライク。
つまり、後ストライク1回でバッターアウトだ。
最低でも、ファールにしなくてはならない。

これまでに彼女が投げた球種を思い出してみる。
信じられない程速いストレートに、信じられない程曲がるカーブ。
一体どうしろと。

『狙い球・・・絞った方が良いんじゃない?』

キャッチャー兼審判役の幼なじみが声を掛けてくる。

『私が知る限り、先輩が試合で投げてるのはこの2つだけだと思う』

つまり、予測を立てるのか。

『そうそう。見送るっていうのもアリかもしれないけど・・・』
『ねえ、まだ?』

彼女がマウンド上で苛立った仕草を見せてくる。
オレは、バットを構えた。
狙い球は・・・

【選択肢】
⇒ストレート
 カーブ
 見送る







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