キャンプイン(栗橋)

??『だ~れだ?』

突然視界が塞がれた。
背中に柔らかい感触がある。

栗橋『みずきさん・・・』
みずき『お、正解。嬉しいねぇ』
栗橋『・・・当たってます』

茶色のセーターの胸元に三日月のペンダントが光っている。
青い髪のこの女性は、キャットハンズの橘みずき先輩。
NPBでは2人目の女子選手であり、人気・実力共にチームの顔ともいえる存在。
元々は集客目当てで指名されたらしいが、独特のフォームから繰り出す高速スクリュー『クレッセントムーン』を武器に、中継ぎエースとして大活躍している。

みずき『おや、もしかして反応しちゃった?栗橋君若いね~』
栗橋『いや・・・』

全く反応してません、って言うのも逆に失礼になるかと思い、言わなかった。
・・・実をいうと、ほんの少しだけ反応していたりする。

みずき『へぇ・・・面白い物見てるじゃん』
栗橋『まあ、去年のですけど』

今、オレが見てるのは去年マサキに貰ったキャットハンズのガイドブックだ。
春季キャンプが始まり、オレは正式にチームに合流した。
待ち合わせの場所に行ったものの、誰もいないので暇つぶしに読んでいた。

みずき『勉強熱心だね~。感心感心』
栗橋『どうも・・・』
みずき『そんな勉強熱心なキミに、お姉さんがご褒美をあげちゃうゾ★』

・・・ご、ご褒美?
あらぬ想像をしてしまった。

みずき『ちょっと借りるね~』

みずき先輩は自分のページを開くと、右手でマジックを走らせる。

みずき『はい、完成』

みずき先輩のページに、直筆のサインが書かれていた。
今日の日付と『栗橋くんへ』と自分の名前まで書かれている。

みずき『こうすると、それっぽいでしょ?』
栗橋『あ、はい・・・』
みずき『それにしても・・・』

みずき先輩は少し暗い顔になった。

みずき『アイツも同じ事してたのよね・・・』

小声で言う。
・・・アイツ?
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