妹たち(澄谷)

澄谷『・・・』

ホテルの天井を見つめる。
実家に行こうと思えば行けるのだが、あえてそれをしなかった。
プロ入りしてから5年間、数える程しか会っていない。

男性アナ『ところで美奈子さんは、クリスマスの予定とかあるんですか?』
美奈子『クリスマスですか?誰か素敵な人がいればなー、っていつも思ってるんですよ』
男性アナ『またまたー・・・』

クリスマスか。
きっとその日も自主トレするのだろう。
バットを振るその瞬間だけは、あの時の思い出から解放される。

澄谷『・・・』

それでも時々思う。

美奈子『つ、続いてのニュースです。サッカーの元日本代表で現在はJFLでプレーしております、●●●●選手が今シーズン限りでの現役引退を・・・』

いつかはオレも引退しなくてはならない。
少なくとも、40まで現役でプレーする事はまず無理だろう。

男性アナ『確か、まだ30過ぎたばかりですよね?』
美奈子『はい。度重なる怪我もあり、今後は指導者を目指すとのコメントです』
男性アナ『ところで美奈子さんは今年・・・ひいっ!?』
美奈子『後で・・・ちょっとお話が』

テレビを消した。
部屋が静寂に包まれる。

澄谷『・・・』

現役を辞めた後、オレはどうなるのだろうか。
何処かの球団にコーチやスタッフとして残れるのなら、それはとても幸せな事だろう。
ただ、必ずしも野球に携われるとは限らない。

澄谷『・・・』

来シーズンも、とりあえずやるだけの事はやろう。
明日からひたすら練習の日々だ。
そして現役を退く時がきたら、その時は・・・

澄谷『・・・』

そこまで考えた所で睡魔に襲われ、オレは身を任せた。
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