ある夏の記憶(澄谷)

??『聖タチバナって、橘みずき選手の・・・』

橘みずき選手。
パ・リーグのキャットハンズに所属している、史上二人目の女子プロ野球選手だ。
一年目はあまり結果を残せなかったが、今年は大事な場面での登板も増えている。
もう一人、同期でプロ入りした先輩がおり一軍出場こそまだ無いが、将来の主軸として期待されている。

??『機会があれば、試合観に行っても良いですか?』
澄谷『・・・どうぞ』

そしてオレは、今日公園で会ったばかりの女の子と話し込んでいた。
心なしか、さっきより座ってる距離が近くなった気がする。

??『あの・・・よろしければ、お名前伺ってもよろしいでしょうか?』
澄谷『あ、はい。澄谷正己(すみたにまさき)って言います。字は・・・』

生徒手帳を見せる。

??『聖タチバナ、澄谷・・・正己さん・・・』

自分の手帳にメモしている。

??『あ・・・私は、音成女学院の三国沙織(みくにさおり)です。三国は三つの国って書きます。下の名前は・・・えっと、手帳をお借りしてもよろしいでしょうか?』

生徒手帳の空いてるページを差し出す。

沙織『あの・・・そろそろ失礼します。今日は本当にありがとうございました』
澄谷『・・・こちらこそ』

丁寧にお辞儀をし、彼女は帰っていった。
一人になったベンチが、やけに広く感じた。

手帳を開いてみる。
『三国 沙織』と綺麗な字で書いてあった。
手帳を鞄に戻し、何となくモヤモヤした気持ちのまま、オレは近くのファーストフード店へ向かった。
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