ある夏の記憶(澄谷)

詰めれば3人位は座れそうなベンチだが、基本的にはカップルが2人で座っている。
3人で座っているのは親子連れ位だろう。
そんな公園のベンチで、オレは見知らぬ女の子と座っていた。

澄谷『・・・』

隣の女の子を見てみた。
ペットボトルの紅茶を飲んでいる。
年はオレと同じ位だろうか。
長い黒髪にヘアバンドが良く似合っていた。

??『良かったら、少し飲みませんか?ちょっと多くて・・・』

紅茶を差し出された。
まだ半分位残っている。
オレがどう答えようか考えていると

??『あ、ごめんなさい・・・。そ、そうですよね・・・はい』

ハンカチでボトルの上を拭き、もう一度差し出してきた。
遠慮するのも逆に悪いと思い、少しだけ飲んだ。

澄谷『すみません』
??『いえ』

ボトルを返す。
受け取った彼女が何かに気付いたような表情になった。

??『あの・・・もしかして、野球されていますか?』
澄谷『一応』
??『私は観る専門なんですけど、妹が野球やってまして・・・』

男に混じってやっているのだろうか。
円の事が頭に浮かぶ。

??『まだ小学生なんですけど、できれば今後も続けたいみたいなんです』
澄谷『じゃあ、シニアに?』
??『はい。でも高校に上がる前に、女の子はほとんど辞めていくみたいで・・・』

公式大会に女子選手の出場が可能になったとはいえ、中学→高校と上がるに連れ競技人口は減っていくらしい。
ソフトボールや他の競技に転向したり、マネージャーとしてサポートに回る道を選ぶそうだ。
女子野球の名門校も幾つか存在するが、競争は厳しいと聞いた事がある。

澄谷『ウチの野球部なら、一人いますよ?』
??『女の子の部員ですか?』
澄谷『はい。同い年で』

対戦相手にとっても、女子選手である円の存在は珍しいらしく注目の的になる事も多い。
聞くに堪えない野次を飛ばされる事もあったが、幸いにも当の円は気にしてる様子は無い。
逆に言えば、あれくらい気が強くないと厳しいのだろう。
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