ある夏の記憶(澄谷)

聖『なるほど・・・どうも上手く行かないと・・・』
澄谷『はい・・・』

グラウンドでは相変わらず拓哉vs円、そしてベンチでは聖先輩のお悩み相談室が始まっていた。
再び鋭い打撃音が響く。

瀬名『ぐわぁー!い、今のナシ!!』
マネ『ねえ、そろそろ一旦休んだ方が・・・』

そして、オレの悩みはと言うと・・・ここ最近、どうも守備にしても打つ方にしても上手く行かない事だ。
練習とはいえ、イージーミスを連発するとさすがに気が滅入る。

聖『そういう時こそ練習だ!・・・なんて、通り一辺倒なアドバイスをするつもりは無い』
澄谷『・・・』
聖『思うに、澄谷は疲れているんだ。身体では無く、心がな』
澄谷『心・・・ですか?』
聖『そうだ。心技体・・・どれかが欠けていても最高のプレーはできない』

聖先輩の言う事には一理あった。
何となく最近、気分が乗らない。

城咲『あっぶないわね!どこ投げてんのよっ!!』
マネ『ま、円ちゃん・・・』

ほとんどの部員を巻き込んだイベントは、まだしばらく終わりそうになかった。
夏の大会が終わり、オレ達の学年が最上級となったので止める人はいない。

聖『・・・澄谷は趣味とかあるのか?』
澄谷『いえ、特には・・・』

野球が趣味みたいな物だった。
だが、この状況で効果は無いだろう。

聖『なら・・・そうだな。海でも見てくると良い』
澄谷『海・・・ですか?』
聖『別に海じゃなくても良い。湖でも、山でも良い。自然を感じて自分を見つめ直すのも手だ』

自分を見つめ直す・・・か。

聖『本当だったら、ウチの寺に来て座禅でも組んでもらうのが一番なんだが・・・生憎、今日は忙しいらしい』
澄谷『それはまたの機会で・・・』
聖『遠慮しなくて良い。今日は無理だが、いつでも待っているからな』

グラウンドの方を見てみる。

瀬名『バカ!』
城咲『アホ!』
瀬名『ガサツ女!』
城咲『単細胞!』
瀬名『貧乳!』
聖『・・・』
澄谷『・・・』

子供の喧嘩が始まっていた。
そして拓哉の一言が円の琴線に触れてしまったらしい。

城咲『い、言ったわねぇっ・・・!!』
瀬名『お、やる気か?』
マネ『ああっ・・・』

ついには掴み合いを始めてしまった。
周囲にいる部員達も、何人かが止めに入る。

聖『さて・・・澄谷』
澄谷『・・・はい』
聖『少々時間がかかりそうだが、澄谷はどうする?』

いつの間にか聖先輩は木の棒を持っている。
『精神注入棒』と書かれていた。

聖『皆と一緒に私の説教を受けるというのなら、別に止めはしないが・・・思い立ったが吉日だ、折角だから何処か行ってきたらどうだ?』
澄谷『で、ですが・・・』
聖『体調が悪くなって、私と入れ違いに早退した・・・位の言い訳はしてやる』
澄谷『・・・すみません』
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