野球の島(夢小説)

アイスコーヒーを一口啜る。
さらに冷たい水も一口。

真理『成果・・・無かったわね』
ユリ『・・・』
真理『・・・ユリ?』
ユリ『あ、ゴメン。成果?大有りだと思うよ』

ヘッドホンを外したユリが、手元のノートに何やら書き込みながら言った。
指定された順番に写真を見せながら、見覚えが無いか尋ねる。
地元の住人やスーパーの店員、神社の人にまで手当たり次第に聞いて今日で3日目。
残念ながら、これといった反応は見られなかった。

真理『・・・本当に?』
ユリ『うん。真理ちゃん探偵の素質あるんじゃない?』

今度は島の地図を取り出して、赤いボールペンで×やら△やらの記号を書き込んでいる。
アイスコーヒーには一口も口を付けていない。
歩き回って疲れたので、喫茶店で休憩中だ。

真理『・・・』
ユリ『うーん・・・』

再びヘッドホンを装着し、タブレット端末の画面に指を滑らせている。
手持ちぶさたになった私は、アイスコーヒーを半分程飲み干した。
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真理『すみません、ありがとうございました・・・』
『あれ、そういえば・・・』
真理『妹です。引っ込み思案な性格で』
『そ、そうか。それじゃあなー』
真理『はい・・・』



そこまで再生した所で動画は停止した。
私と話していたのは、何故か土鍋を頭に被った地元の住民。
他にもコック帽やヘルメットを被った人物とも遭遇しているので、この島にはそういった風習があるのかもしれない。

ユリ『ここの部分、もう一回』
真理『・・・』

鍋を被った男性がユリに気が付く場面を、もう一度再生している。
ユリが鞄に忍ばせた隠しカメラで撮影した物だ。
私はというと、毎回変わるユリの指示に多少呆れながらも実直に従っていた。

ユリ『真理ちゃんは、どう思う?』
真理『うーん・・・特には』

ユリ自身の事を聞かれた時は《妹》と紹介する手筈になっていた。
私にレコーダーで録音するよう指示して、少し離れた所から観察している事もあったかと思えば、わざと私のすぐ隣にマスクをして立ったりする等の奇妙な行動を見せる事もあった。
頭を下げる事はしても、一言も喋っていない。
白のワンピースといい、一体何の意味があるのだろうか。

ユリ『本当に?』
真理『強いて言うなら、胸元の辺りとかチラチラ見てたのが気になった位』
ユリ『こーんな風に?』
真理『・・・そこまで露骨じゃない』
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ユリ『とりあえず、この辺りを例のソフト使って解析掛けてみようっと』

難解な事を言いながらタブレットを閉じた。
氷が溶けて薄くなってしまったアイスコーヒーを啜っている。

真理『例のソフト?』
ユリ『うん。声紋調べられるやつ』

とんでもない事をサラッと言いながら、メニューを見ている。
ブルーベリーのタルトを注文すると言うので、私も同じのを注文した。

真理『明日は練習参加するの?』
ユリ『うーん・・・その予定だったけど、一日遅らそうかな?解析したいし』

野球部合宿に同行してるユリと違い、私は単独行動(と言っても透にはバレてしまったが)。
明日は自由行動、明後日の午前に出るフェリーで本土に戻る事になっている。

真理『声紋?』
ユリ『それもあるし、表情とか・・・』
真理『・・・』

私よりも、ユリの方が探偵に向いているだろう。

ユリ『あ、それと《例の物》どうする?合宿終わってからすぐに送るけど、それで良い?』
真理『・・・新学期で構わない』
ユリ『そう?特別な刺繍が入った限定仕様(シリアルナンバー付)だから、一刻も早く着たいな~・・・とか、無い?』
真理『無い』

またクローゼットが狭くなりそうだ。
かといって、売るのも何となく申し訳ない。
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デッキから風を浴びる。
遠ざかっていく島を無意識に眺めていた。
あの後、ユリオススメの美味しいレストランに行ったりバッティングセンターで打ち込んだりと一応は楽しんだのだが、どうもスッキリしない。

真理『・・・』

第一に、ユリの服装だ。
単に写真の誰かを探すだけなら、わざわざ普段着ないような服を着たりする必要は無いだろう。
『風が吹く度に押さえなきゃいけないんだよー』とか言ってる辺り、明らかに着慣れていない。
ユリが合宿に出発する前の日に一度会ったが、その時は普段通りの格好だった。

そして第二にユリの言動。
私が地元民に聞き込みしている間、一言も喋っていない。
近くに行く時は、マスクで顔を隠す。
思うに、自分ではない誰かを演じていたのではないだろうか。
つまり、あの写真は全てダミーで・・・

??『島、見えなくなっちゃいましたね』

突然、声を掛けられた。

??『観光ですか?』
真理『まあ・・・そんなとこです』

サングラスをしている女の人が隣で風を浴びていた。
20代中盤くらいだろうか。
やや大きめの鞄には、アクリルの四角いキーホルダーが付けられていた。
シャイニングバスターズのユニフォームがデザインされており、背番号の上に《SUMITANI》と書かれている。

??『知ってますか?あの島、昔は《ドラフ島》って呼ばれてたらしいです』
真理『ドラフ島・・・』

口に出してみると、興味をそそられた。
帰ったら検索してみよう。
球場が(跡地も含めて)点在していたのと、何か関係があるのかもしれない。
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