野球の島(夢小説)

ユリの大冒険
??『ゴメーン!待ったー?』
??『・・・少しね』
??『あー、ダメだよ真理ちゃん。そういう時は《ううん、今来たとこ》って言わないと』
真理『・・・』
??『もしかして、機嫌悪い?』

昨日、色々あったせいで何となくモヤモヤした気持ちなのは事実だった。
私は小林真理。
恋恋高校に通う3年生。
一応空手部に籍を置いているが、最近は全くと言っていいほど出ていない。

真理『・・・別に。それにしてもユリ、随分と珍しい服着てるわね』

某女優みたいに返しつつ、目の前の彼女を見てみる。
私と同じクラスの三国由利(みくにゆり)。
制服以外だと動き易い服装を好むユリだが、今日はどういう訳か白のワンピース姿だった。

ユリ『だって、待ちに待った真理ちゃんとのデートだもん。あんな事やこんな事付きの・・・』
真理『帰る』
ユリ『あー、待って待ってー!何もしないからー!それに今からだとフェリー変更するの手数料かかっちゃうよー!!』
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夏休みに入る、少し前の事だった。

ユリ『真理ちゃん、真理ちゃん。突然だけど、バカンスに興味無い?』
真理『・・・渋谷のキャッチセールスみたいな事、言わないでくれる?』
ユリ『それって今は違法じゃなかったかな?・・・って、そうじゃなくてバカンスだよ、バカンス。南の島のバカンス。興味あるよね?』
真理『まあ、一応は・・・』
ユリ『だから、はい』

緑茶飲料のロゴが入ったクリアファイルを渡してきた。
中には印刷された紙が数枚と、封筒が2つ。

真理『なにこれ?』
ユリ『中、見てみて?』

促され、中に入っている紙を見てみる。
最初の紙には



行程表 小林真理様



と印字してあった。

真理『既に行くの前提?』
ユリ『もっちろん♪』

さらに見てみる。
往復のフェリーの時間は書いてあるものの、それ以外は《バカンス》と《自由行動》のみだった。

ユリ『ちなみに補足しておくと、《バカンス》は私と行動、《自由行動》はその通りなんだけど、あまり遠くには行かないでね』
真理『・・・』

他の紙も見てみる。
フェリー乗り場までの交通手段を印刷した紙とホテルのホームページを印刷した紙、島の地図が入っていた。

真理『ここって確か・・・』
ユリ『野球部の合宿場所。私も、何日かは練習に参加するから』
真理『トライアウト、秋だっけ?』
ユリ『うん。真理ちゃんも一緒に受けてみない?』
真理『遠慮しとく』
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真理『それで、今日はどうするの?』
ユリ『えっとね、幾つかお願いしたい事があるんだけど・・・』

何枚かの写真を渡してきた。
30代位の男性もいれば、60過ぎてる女の人もいる。
4枚あったが、年齢性別共にバラバラだ。

真理『要は、人探し?』
ユリ『まあ、そんなとこ。よろしくね、真理ちゃん』
真理『って、私が聞くの?』
ユリ『最初の何回かは私が聞くから、その後お願いね』
真理『・・・念の為聞いておくけど、危ない人物じゃないでしょうね?』

改めて写真を見てみる。
柔和な笑みを浮かべている人もいれば、真剣な眼差しを向けている人もいた。

ユリ『実はね・・・この人が本命なの』

柔和な笑みを浮かべている60歳位の女の人を指差した。

真理『この島にいるの?』
ユリ『前に、ウチの部員が似たような人を見たんだって。昔ウチで働いてた、富永さんって人』
真理『ふーん・・・』

文字にすると少しややこしいが、最初の《ウチ》はユリが所属している(正確には所属していた)恋恋の野球部の事だ。
そして次の《ウチ》はユリの実家・・・すなわち、三国家で働いていたお手伝いさんという事だろう。
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日本を代表する企業グループ、ミクニグループ。
とにかく、大きい。
そして、種類(業種)が多い。
不動産や銀行といった代表的な事業は私達高校生だとあまり馴染みが無かったりするのだが、ピザ屋や牛丼屋といった飲食業界にも進出していたりする。

ユリ『後で良い物あげるから、ね?』
真理『良い物?』

例えば・・・今、私が手に持っている緑色のクリアファイル。
《無右衛門》という緑茶飲料のロゴがあしらわれているが、これも実は三国グループの一企業《ミクニコーヒー》という会社の商品だ。
行程表や地図に加えて、《茶匠のこだわり》と書いてあるパンフレットが同封されていた。
おそらく、販促物を持ち出してきたのだろう。

ユリ『うん。これを着れば、透君も大喜びだよ』
真理『って事は・・・』

そして今回の旅行。
一応最低限の金は持ってきてはいるが、宿やフェリーの支払いは全て同封されているクーポンで賄える事になっている。
自分で払ったのは、自由行動中の食事代くらいだ。
しかも思わぬ臨時収入があったので、トータルでは黒字になった。

ユリ『そう、コスプレ一式。なんとなんと今回は、ばきメモ2の通称《彼女》さんのですー』
真理『ばきメモって・・・時々CMでやってるアレ?』
ユリ『うん。なんとなくだけど、真理ちゃんって《彼女》さんに雰囲気似てるんだよね。《ばきメモ》フォルダ・・・あったあった』
真理『うーん・・・自分ではよく分からないけど』

週に何回かアルバイトもしているらしいが、とてもそれだけで二人分の交通費と滞在費は作れないだろう。
つまり・・・そういう事だ。
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ユリ『で、お願いがあるんだけど・・・』
真理『却下』

そんなユリだが、所属していた野球部では選手として唯一の女子部員にも関わらずキャプテンを務めていた。
学業の方も、私が知る限り全科目90点を下回った事が無い。

ユリ『別に良いじゃん、コスプレ写真くらい~』
真理『やだ』

だが、彼女には一つだけ秘密・・・というか変わった所がある。

ユリ『私が個人的に楽しむだけなのに?』
真理『尚更やだ』

そう・・・つまり、ソッチの気があるのだ。
私がその事を知ったのは、今から一年と少し前・・・ユリが人気の無い所で泣いていたのを、偶然目撃したからだった。

ユリ『せっかく真理ちゃんフォルダ作ったのに、未だにカラなんてありえないよ~』
真理『・・・そんなの作る方がありえない』

どうやら部活の人間関係・・・端的に言えば、男と女の関係がおかしくなったという事だった。
高校にいる間は野球に集中したいのかな・・・と思ったが、ユリの口から語られた言葉は信じがたい物だった。
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私はユリが冗談を言って茶化していると思った。
同じクラスの男子とも普通に話し、廊下で部員と野球談義で盛り上がっているのを見た事もある。

ユリ『《Natsuki》フォルダはこんなにあるのに?ほら、スクロールスクロール』
真理『・・・』

多分、照れ臭くなったのだろうと思った。
ただ正直、茶化すのは相手に失礼ではないのか。
そう指摘すると、今度はさらに人気のない屋上まで引っ張られた。
そして私を抱きしめ、顔を近付けてきた。

ユリ『これが、例の水着』
真理『お尻・・・』

唖然としてされるがままになっていた私の5センチ手前で止まって、そしてその時のユリの表情を見て嘘ではないと確信した。
付き合うって事は、これ以上の事をする・・・でも、私は無理。

ユリ『そうだ。お尻で思い出したけど、この前あげたレオタードとベレー帽着てくれた?記憶を失った軍人娘の』
真理『着る訳無いでしょ?クローゼットで眠っているわよ』

そう言い残し去っていくユリを、私は見送る事しかできなかった。

ユリ『ええ~?透君がハチマキ胴着で、真理ちゃんがレオタード軍人娘とか盛り上がると思うけどなー?』
真理『そ、そんな訳無いでしょ?どこの変態カップルよ』

ヤバい、声が震えてしまった。
時々一人で胴着姿になっているなんて、絶対ユリには言えない。

ユリ『カップルって事は認めるんだね?最近は、フランケンシュタイナープレイっていうのが流行ってるんだって』
真理『どこ情報よ?第一危ないでしょうが』

次の日からは元通りに話すようになった。
透の事も相談するべきか迷ったが、(共通の知人がユリしかいなかったので)結局話してしまった。
結果、妙なコスプレ衣装がクローゼットを占拠する事となってしまったが。
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