野球の島(夢小説)

合宿2日目の夜の事だった。

『ありがとうございましたー』

棒読みな挨拶に見送られ、コンビニの自動ドアから出た。
両手の袋には、ペットボトルが数本と徳用サイズのお菓子が幾つか詰め込まれている。
ジャンケンで最下位になってしまったオレは、ホテルから数分の所にあるコンビニに買い出しに行くハメになってしまった。

透『はぁ・・・』

思わず溜め息が出てしまう。
オレと入れ違いで一人の女性が店に入っていった。
野球帽に黒ぶちの眼鏡、下はハーフパンツ姿だ。

??『・・・』

と、思ったら女性は自動ドアに入らずオレの事を凝視している。
そして。

??『・・・透?』

聞き慣れた声がオレの名前を呼んだ。

透『え・・・真理?』
真理『ちょっと待ってて!』

真理は店の中に入ってしまった。
どうも思考が追い付かない。
何故、真理がこの島にいるのだろうか?
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透『・・・』
真理『・・・』

真理が買ってきたお茶を一口飲む。
オレ達2人は近くの公園に移動していた。

透『つーか、どうして?』
真理『・・・こっちに親戚がいるの』

小林真理。
オレの幼なじみで同じ高校の一年先輩。
周囲からは付き合っていると思われているようだが、オレには・・・よく分からない。

透『でも、真理の親戚って長野と北海道じゃあ・・・』
真理『・・・』

雪で歩きにくいとか、暖かい方に行ける人が羨ましいとか言っていた。
お土産に買ってくる白い●人は、オレの密かな楽しみだったりする。

透『そうだ、今度じゃが何とかっていうのも買って・・・アダダダ!』
真理『察しなさいよ、聞かれたくないって!あとアレはなかなか売ってないのよ、このっ!!』

真理に腕を極められる。
冗談抜きに痛い。
ぽっくると言うか、このままではポックリ逝かされそうだ。

透『ギ、ギブギブ~!』
真理『何よ、だらしないわね』

解放され、力無く真理の膝の上に倒れ込む。
起き上がろうとして、頭を押さえられた。

真理『・・・別に、構わないわよ』
透『何が?』
真理『膝よ、ひ・ざ!』
透『むごごご・・・』

もう一度起き上がろうとした所を、今度は強く押さえ付けられる。
これでは3カウントを取る為のフォールだ。
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透『・・・』
真理『・・・』

このまま朝までこうしていたい。
買い出しに行かされたのもすっかり忘れ、極楽に浸っていた。

真理『あのさ・・・』
透『ん?』

夢心地のまま、返事をする。

真理『ユリ、何か言ってた?』
透『先輩?いや、特には・・・あ、もしかして真理が来たのって、先輩絡み?』
真理『あ、えーと・・・』

明らかに動揺している。
どうやらビンゴらしい。

真理『い、いい?ここで私と会った事や聞いた事、誰かに言ったら・・・覚悟しなさいよ?』

暴力に訴える事にしたようだ。

透『ユリ先輩にも?』
真理『あ、当たり前でしょ!もし言ったら膝蹴りよ、膝蹴り!!』

今、オレが身を委ねている寝心地の良い枕が恐ろしい凶器に見えてしまった。
身震いしてしまったのは、昼と夜の気温差の為だけではないだろう。

透『ひ、膝蹴り・・・』
真理『それも只の膝蹴りじゃなくて、ガードできないように頭抱えてからの連続膝蹴りだからね』

レバーとボタン連打で脱出しないと大変な事になりそうだ。

透『・・・そうか!謎は全て解けた』
真理『謎?』
透『うん。真理が呼ばれたのって、おそらくボディーガー・・・どぅっ!?』

腹に強烈な一撃がヒットした。
しかも命中する寸前に膝を浮かすという芸の細かさ。

真理『失礼しちゃうわね・・・』
透『ゲホ・・・グホ・・・だって真理、空手やってるじゃん』
真理『最近は部活の方はあまり出てないけどね。ついでに言うと、柔道と剣道も少しだけやってたわよ』
透『・・・』

真理の《少しだけ》はアテにならない。
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透『向こうに帰るのはいつ?』
真理『私?透達が帰る2日前の定期便』

すっかりぬるくなってしまったドリンクを横目に、オレと真理は孤島の公園で話し込んでいた。
最近買った、テン●ュールの枕よりも寝心地の良い枕に身を委ねてそろそろ30分が経つ。

透『じゃあ海水浴には参加しないんだ?』
真理『・・・仮にいたとしても参加できないでしょ、お忍びで来てるんだし』

上を見てみる。
去年は気付かなかったが、星が凄く綺麗だった。
もし、買い出しに行かなかったら今年も気付く事なく合宿を終えただろう。

真理『それに・・・水着持ってきてないし。あ、そういえばさ』
透『何?』
真理『去年のあの人の水着って、そんなに凄かったの?』
透『監督?』
真理『うん・・・』

もちろん、今こうやって真理に膝枕をしてもらう事も無かった。
今回ばかりは、ジャンケンに負けた事に感謝したい。

透『凄かったというか・・・ヤバかった』
真理『どれ位?』
透『公共の施設なら、確実に職質されるレベル』

アレで市民プールなど行こうものなら、即座に係員がすっ飛んでくるだろう。
あの砂浜にはオレ達以外は誰もいなかったが、もしかして貸し切っていたのだろうか?

真理『ふーん・・・ユリが言ってたの、あながち誇張じゃなかったんだ』
透『うん・・・ほとんど間違いないと思う』

ユリ先輩は彼氏絡みだとか言っていたけど、真相はどうなのだろうか?

真理『・・・後ろとか、ほとんどヒモだったんでしょ?』
透『前もだったかな・・・う』

監督の揺れるアレをはっきりと思い出した途端、身体の一部分が大変な事になってしまった。

真理『・・・どうして膝を抱えている訳?』
透『いや、これはその・・・』
真理『最っ低・・・超マイナスポイント』
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真理『ところでさ・・・この島って、何の為に作られたんだろうね?』
透『うーん・・・リゾート開発とか?』

ようやく落ち着いて(鎮まって)きたので足を伸ばす。
吹き付けてくる夜風が心地良い。

真理『今はそうなのかもしれないけど・・・ちょっと不自然なのよね』
透『不自然?』
真理『うん。透達のいる球場の方には近付かないようにして、少し散策してみたんだけど・・・私が見ただけで8つの球場があったわ』
透『8つも?』

失礼ながら、こんな島に8つも球場が必要なのだろうか?

真理『うん。正確には、ゴルフの練習場に改造されていたり立入禁止になってる所も含めて・・・だけど』
透『だとしても8つっていうのは・・・』
真理『多すぎるよね。プロ野球のキャンプなら、2つあれば良い訳だし』

そもそも、こんな場所でプロ野球のキャンプが行わなれているなんて話は聞いた事が無い。
第一、島に空港が存在しない時点で有り得ないだろう。

真理『体育館みたいな施設も何箇所か見たし・・・』
透『体育館?』
真理『うん。体育館というかジムというか・・・いずれも使われていない物ばかりだったけど』
透『じゃあ、オレ達が使ってる施設と同じようなのかな?』

合宿で使っている球場近くにも、真理が言ったような施設がある。
去年はそこで、気分転換にバスケをした。

真理『そこは使われているんだ?』
透『うん』
真理『後は・・・地元の人に海岸の砂浜について聞いてみたんだけど、広い方はここ何年かの間にできた物なんだって』

島を観光名所と売り出すなら広い砂浜は不可欠だろう。
つまり、最初は観光目的で無かったという事だ。

透『人工の砂浜なんだ?』
真理『うん。《普段は地元の人に解放してくれているダスけど、一週間位前から立入禁止になってるダス》って言ってた』
透『《ダス》って・・・』
真理『うっさいわね!ホントにそう言ってたのよ!!』
透『痛っ・・・痛っ!』

連続でデコピンしてくる。
地味に痛い。
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透『うーん・・・何かの養成施設、とか』
真理『何の?』
透『真理みたいな恐ろしい戦闘員の』
真理『遠距離なら波●拳、飛び込んできたら昇●拳、そしてトドメは背負い投げ、って・・・誰が戦闘員よ!』
透『ぐほっ!』

強烈なボディーブローが突き刺さる。
波●拳以外は普通に出せそうなのが恐ろしい。

真理『やっぱ野球絡みなのかな?』
透『ゲホゲホ・・・施設というか、この島全体?』
真理『うん・・・』
透『実はこの島全体で巨大な陰謀が・・・』

そしてあの搭から改造人間を生み出す!
・・・んな訳無いか。
ところが。

真理『・・・!』
透『な・・・うわっ!』

突然、真理が勢いよく立ち上がった。
浮き上がったオレの身体は、次の瞬間には地面に叩き付けられていた。

透『アテテ・・・』
真理『あ、透ごめん・・・』

真理の手を借りて立ち上がる。

透『真理、どうしたの?』
真理『・・・そこに誰かいる』

真理が公園の入口を指さす。
オレもズボンを払いながら、その方向を向いた。



そこには・・・
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