野球の島(夢小説)

野球の島
潮風が気持ち良い。
これで隣に真理がいれば・・・ついつい、そんな事を考えてしまう。

??『おっ、ここにいたか』

声のした方を振り向く。
現れたのは真理ではなく野球部の同級生、延岡宗太郎(のべおかそうたろう)。

延岡『いやー、1年ぶりだなー・・・』
透『だな』

そしてオレは矢島透。
延岡と同じ、恋恋高校に通う野球部員だ。

延岡『あの海の向こうに、我々の目指す理想境がある』
透『理想郷、ねぇ・・・』
延岡『理想郷・・・それは水着だな、水着』

水着・・・。
どうしても、去年のアレを思い出してしまう。

延岡『例えゴミだらけの汚い砂浜でも・・・水着の女神達がいる事で、そこは理想郷と成る』
透『いや、去年行った時はゴミ一つ落ちてなかったぞ』

不自然な位に。
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延岡『そして我等が恋恋野球部においては、孤独な我々を慰める為に監督自ら・・・ん?ちょっと待てよ』
透『?』

突然顎に手を当てて考え込む。
そして突然、クワっと目を見開いてこちらを向いた。

延岡『今すぐここから・・・飛び降りろっ!』

血走った目で、どこぞのブラック企業の親玉みたいな台詞を吐く。

透『ど、どうして?』
延岡『どうしてもだ!泳いで島へ渡れ!キャプテン命令だ!!』
透『お、横暴だ!』
延岡『五月蝿い五月蝿い!どうして貴様だけ・・・』
??『まあまあ、それ位にしてあげましょう』

後ろから優しげな声が聞こえた。

??『ね?延岡キャプテン』
延岡『ぐぬぬ・・・』
透『あ、ユリ先輩』

三国由利(みくにゆり)先輩。
選手としては唯一の女子部員だった彼女が引退した事で、女子はマネージャーのみとなってしまった。

ユリ『キャプテンって呼ばれるの、慣れた?』
延岡『いや、正直くすぐったいっす』

満場一致で次のキャプテンに指名されたのが、この延岡。
実力はずば抜けており、名門校から誘いを受けた事もある程だ。
普段は下ネタばかりで周囲をドン引きさせているが、野球に関してだけは自分の事だけではなくチーム全体を考えて行動している。
ギャップを作る為に、わざと不真面目なキャラを演じているのではないかと疑う部員もいる位だ。
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ユリ先輩にとっては高校生活最後となった夏の大会。
良い感じで勝ち上がり、あと2つ勝てば甲子園!
・・・という所で、あっさりコールド負けを喫してしまった。

延岡『それよりも聞いて下さいよ、ユリ先輩~!』
ユリ『なぁに?』

相手は数年に一度は甲子園に出場する名門校だったが、それ程実力差があるとは思えなかった。
結果・・・ほとんどまともに野球をさせてもらえず、打っては延岡のヒット1本だけだった。

延岡『透ですよ、透。なんなんですかね、コイツは』

オマエこそなんなんだ。

ユリ『あー、真理ちゃんね。正直ちょっと嫉妬しちゃうかも・・・』
延岡『え?まさか、ユリ先輩まで・・・』
ユリ『なーんてね・・・キャッ!』

突然、風が強くなった。
慌ててスカートの裾を押さえている。

延岡『あー、惜しい・・・!あと2秒、いや1.5秒遅かったら見えたのに』
ユリ『もー・・・。やっぱ慣れないなー、この服』

今日のユリ先輩は清楚な白のワンピースだ。
制服以外だと動き易い服装が多いユリ先輩なので、これは珍しい。

透『でも、良く似合ってますよ』
ユリ『ありがと。ほら延岡君、こうやってポイント稼ぐんだよ』
延岡『・・・頑張りまーす』
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ユリ『出水(いずみ)さん達は元気?』
延岡『まあ・・・。ただ、最近は暑さで少々参っているみたいです。やっぱ年なんですかねー・・・』
ユリ『ほら、そういうのマイナスポイント!』
延岡『ぐふっ・・・』

ユリ先輩がビシッ!と延岡を指差す。
夏の大会の前、女子リーグに所属する2人の選手に練習を見てもらった。

延岡『なんか今の時期でも、球場によってはデーゲームらしくて・・・』
ユリ『あー、なるほどね・・・』

一人はピッチャーの本西遥(もとにしはるか)さん。
監督とは大学の日本代表チーム以来の知り合いらしい。
そしてもう一人は外野手の都城出水(みやこのじょういずみ)さん。
監督や本西さんよりも一つ年下で、お二人同様に代表チームの常連との事だった。

延岡『先輩も来年はリーグなんですよね?』
ユリ『うーん、その前にトライアウトがあるからねぇ・・・』

監督は元々内野手だったらしいが、彼女達は投手に外野手。
皆、ここぞとばかりに色んな事を聞きまくっていた。
オレも、都城さんには特にお世話になった。
手取り足取り見てもらった時に変な気持ちになってしまったのは、真理には絶対内緒だ。

延岡『本拠地って、先輩の実家の方っすよね?』
ユリ『うん。夏休み中に一旦帰るから、その時に見に行く予定』

都城さんは一見清楚なお嬢様風といった外見だったが、何故か延岡に対しては最初からくだけた言葉遣いで、休憩時間にじゃれ合っている事もあった。
後で、彼女が延岡の従姉妹だと知って一同驚いていた。

透『いつ頃ですか?』
ユリ『9月。だから本当は毎日参加したいんだけど・・・わわっ!』

風で捲れてしまいそうなのを、慌てて押さえている。
今回の合宿にユリ先輩が同行しているのは、向こうに知り合いがいるかららしい。
明日の練習だけ参加して、以降は別行動を取るとの事だった。
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ユリ『ほら、見えてきたよ』
透『おお・・・』
延岡『いよいよっすね』

港からフェリーに揺られて数時間。
島の輪郭が少しずつ姿を現す。
ここに来るのは一年ぶりだ。

透『あの搭って、立入禁止なんですよね』
ユリ『うん。倒壊の危険があるんだって』

島のシンボルと言えるのが、中央にそびえ立つ円筒型の巨大な搭。
一見とても綺麗に見えるが、近くから見るとあちこち塗装が剥げているのが分かる。

延岡『きっとあの搭には囚われのお姫様がいるに違いない・・・透もそう思うだろ?』
透『思わない』
延岡『夢の無い奴だなぁ・・・ユリ先輩はどう思います?』

夢というか妄想だ。
島の中央部が浮島みたくなっていてそこに搭が立っているが、現在は浮島そのものが立入禁止らしい。

ユリ『そうだね・・・もしかしたらいるかもね、お姫様』
透『えっ!?』
延岡『な、なんですとー!?』

どこか悲壮に満ちた顔のユリ先輩。
ワンピースの袖の部分をさすっている。
何かこの服に思い入れでもあるのだろうか?

ユリ『・・・』
延岡『聞いたか、透?早速行くしかない!いつ行くか?今でしょう!!』
透『一人で行け』

某予備校講師の決め台詞をドヤ顔でかました延岡に冷淡なツッコミを入れる。

延岡『うわあ・・・自分は相方がいるからって、この冷たさ!ユリ先輩からも、何か言ってやって下さいよ』
ユリ『・・・』
延岡『先輩?』
ユリ『え・・・ああ、ゴメン!そろそろ着くから支度しよ?』

島が大分近くなってきた。
搭だけでなく、建物や神社等も見える。

延岡『ユリ先輩~・・・』
ユリ『海水浴は私も参加させてもらうから、よろしくね』
延岡『よっしゃー!ところで先輩の妹さんでしたっけ?来年ウチ入るんですか?』
ユリ『あー、今私の胸元見てから言ったでしょ!信じられない!超マイナスポイント!!』

オレは会えなかったが、延岡曰く『まさに極上!フルスペック!!』らしい。
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