マサキとユリ(栗橋)

里美『ねえ、ちょっと良い?』
栗橋『あ、はい・・・』

元マネージャーの諏訪さんが話しかけてきた。
全員が揃い、三国由利さんが働いているオカマ店長の店に向かっている途中だ。

里美『さっきは、ゴメンね』
栗橋『大丈夫です、全然気にしてないんで。えっと・・・諏訪さんですよね?』
里美『うん。ちなみに旧姓は鈴原(すずはら)』

何となく、聞き覚えのある苗字だ。

里美『私、大学の時に後輩とデキちゃって。だから実は、あんま人の事言えないんだよね・・・あはは』
栗橋『はあ・・・』
里美『たまたま切らせてて、ね』

見事に・・・という訳か。
大変な思いをしたのは間違いない。
おそらく、少し前のオレ以上に。

里美『まあ、それは良いんだけど・・・ひょっとして、マサキ君とあんま仲良くない?』

少し前を歩いているマサキに視線が移る。
横には瀬名さんがいて、何やら大声で話しかけながら肩や背中を叩いていた。

栗橋『いや・・・』

そんな事は無い、と思ったが言葉が続かなかった。
例のスキャンダルが明るみになって数日後にマサキと食事をした。
特に何を話す訳でもなく、お互いいつも以上に口数は少なかったが、気を使ってくれているのは明らかだった。

里美『あ・・・無理に答えなくて良いからね』

だが、今日会ったマサキの様子は明らかにおかしかった。
オレに対して見せていた感情。
それは戸惑い、もしくは驚愕と言った方が良いのかもしれない。

『どうして、ワタルなんだ?』

そう訴えかけているようにも感じられた。
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