マサキとユリ(栗橋)

目当てのタクシーはすぐに見つかった。
いや、正確にはタクシーに偽装した車だろう。
《迎車》と表示が出ているが、緑ではなく白ナンバーなので一目瞭然だ。
オレが近付くと後部座席のドアが開いた。

栗橋『あの・・・』
??『クラブハウスでいい?』
栗橋『はい、お願いします。それと・・・』

車内に入る。
本来のタクシーにあるはずの、料金メーターが見当たらなかった。
女性のドライバーが《貸走》に表示を切り替える。
年はオレと同じ位か、少し上だろうか。

??『どっか寄る?』
栗橋『いえ・・・えっと《お代は菊川様に頂いております》』

言われた通りに伝えた途端、女性の動きが止まった。
呆れた様子で溜め息をついている。

??『・・・次、あの男に会ったら伝えてくれない?』
栗橋『え・・・』
??『《自分で様を付けるな、バカ》って』
栗橋『わ、分かりました・・・』
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