もう一度逢うその日まで(澄谷)

墓石の前で一人、佇む。
黒いスーツの女性は

『あなたのお友達なら、何か知ってるかもしれないわ。もっとも、そっちはそっちで大変な事になってるみたいだけどね・・・』

と言い残し、少し前に去って行った。
目の前の墓石には花が生けてある。
そして足元には空のペットボトル。
黒スーツの女が近くの自販機で買ってきたスポーツドリンクだ。
代金を払おうとしたが『別に構わないわ』と拒否された。

澄谷『・・・』

手を見つめる。
プロ入りして6年。
特にここ何年かは、ファンの人とも数多く握手してきた。
大人、子供、老人。
男性、女性、そしておそらく男性な人達。
汗ばんでいたり、乾いていたり、重ねた年月の皺が刻み込まれていたりと様々だった。

そして先ほどの黒スーツ女。
初めて沙織の手を握った時の感覚、それが蘇ってきた。
彼女は、沙織と何らかの関係があるのだろうか?
目の前にある花は、何も答えてくれない。
いずれは枯れてしまうのだろうが、一日でも長く咲いていてほしい。
そう思った。

澄谷『・・・』

最後にもう一度手を合わせて、バス停へと向かおうとした。
足元に置いてあったペットボトルを拾い上げようとした、その時だった。

澄谷『え・・・?』

花の茎の辺りに、何か紙のような物が括り付けられている。
この光景には見覚えがあった。



ちょうど、去年の冬辺りに。
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