ある夏の記憶(澄谷)

城咲『大丈夫なの、マサキ?』
澄谷『・・・大丈夫だ』

少なくとも、野球をしている間は。
バットでボールを叩く、その瞬間だけは。

城咲『相変わらず生気の無い目ね』
澄谷『ほっといてくれ・・・』

別に隠す気は無い。

城咲『・・・』
澄谷『・・・』

あの後オレ達は、昼に集合した駅前の居酒屋で打ち上げをしていた。
携帯を見ると、円から『ちょっと出て。話があるから』とメールがあり、一旦外に出た。

城咲『本題に入るわね』
澄谷『頼む』

こんな雑談をする為だけに、わざわざ外に呼び出す必要は無いだろう。

城咲『少し前に、遠征の試合があったの』
澄谷『女子リーグか?』

円が所属している女子リーグの本拠地は、ここからそんなに離れていない。
基本的には本拠地周辺での試合が中心だが、遠征試合を行う事もあるらしい。

城咲『うん。それでね、試合の後にサイン会とかのイベントやってるんだけど』
澄谷『ああ』
城咲『来たのよ、沙織の妹・・・ユリって名乗ったわ』

沙織には年の離れた妹が2人いる。
由利(ゆり)の方は今、高校生くらいだろうか。

澄谷『元気そうだったか?』
城咲『うん・・・』

あれから、家の人間とは一度も会っていない。
墓参りに来たのも今日が初めてだ。

澄谷『そうか・・・』
城咲『場所が場所だけに込み行った話もできないから、電話番号だけ交換したわ』
澄谷『会ったのか?』
城咲『しばらくしてからね』

あの家で沙織と話してると、いつの間にか近くに来ている事もあった。
当時、まだ小学生位だったと思う。
あの一件で2人共、入院してしまったと聞いた。

城咲『とりあえずは元気そうだったわ。でも・・・』
澄谷『?』
城咲『ゴメン、何でもないわ。思い違いだと思うから』
澄谷『そうか・・・』

大した事では無いだろう。
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