ある夏の記憶(澄谷)

城咲『前に誰か来てたみたいね』

ほとんど枯れてしまった花が刺してあった。
前に来た人間が供えたのだろう。

マネ『可哀相だけど、取り替えなきゃね』
瀬名『・・・何か付いてるぜ、この花』

拓哉の声で、皆の視線が枯れた花に集まる。
ラベルのような物が枝に括り付けてあった。

城咲『何か書いてあるわね』
マネ『えっと・・・《愛莉沙》?ありさ・・・で良いのかな、呼び方』
瀬名『マサキ、知ってるか?』
澄谷『いや・・・』

聞き覚えの無い名前だった。
《愛莉沙》の沙は沙織と同じ文字だったが、目に付く所といえばそれくらいだった。

マネ『前に来た人とか、じゃない?』
瀬名『花屋の名前・・・は、違うよな』

それっきり、話題にする事もなく黙々と皆で墓の掃除をした。
そして、新たに買ってきた花を生け、手を合わせた。

幻聴でも、もう一度沙織の声が聞きたかった。
これからも、オレは後悔し続けるのだろう。

・・・でも、それでいい。
9 / 12
9/24ページ