もう一度逢うその日まで(澄谷)

澄谷『・・・』

何台目か分からない水上バスが港を離れていく。
あれから少し後に二人で乗ったのが最初で、おそらく最後だ。

『水上バスをご利用のお客様にご案内致します。次の便は・・・』

何回目になるか分からないアナウンスが、右から左へと通り過ぎていった。
高校時代、拓哉と遊んだゲームにはドアを開ける事のできるゾンビが登場した。
なんでも、生前行っていた行動はゾンビ化しても無意識の内に行う事ができる(という解釈)らしい。

澄谷『・・・』

まさに、今のオレではないのか。
この辺りで時間ができる度に、《彼女》と行った場所に向かう。
話の流れで立ち寄った図書館やコンビニ。
意外と上手くて驚かされたバッティングセンターや、当時御用達だったスポーツ用品店。
テーマパークに一人で入ろうとした時は、さすがにチケットを買おうとした所で思い留まった。

『まもなく、改札を開始いたします。なお、危険物の持ち込みは・・・』

結局、身体が腐っているかそうでないかの違いだけなのかもしれない。
そして、いずれは・・・

澄谷『・・・ダメだ』

ホテルに戻ってバットを振ろう。
筋トレでも良い。
そう思い、立ち上がろうとした時だった。

??『バスターズの・・・澄谷君?』

一人の男性がオレを見て、立ち止まった。
ファンの人かと思ったが、何となく声に聞き覚えがある。

澄谷『菊川・・・さん?』

サングラスを外した顔に見覚えがあった。
去年まではパワフルズ、そして今年からはバルカンズに所属している菊川尚志(きくかわたかし)さんだった。

菊川『そう・・・カレーを買いにね』
澄谷『はぁ・・・』

ビニール袋の中には、ドライカレーの箱。
水上バスに乗った後、野球部の皆へのお土産として大量に買っていった事がある。
家庭科室を借り、皆に振る舞った。
そして、その時以来食べてない。

菊川『少し話さないか?』
澄谷『あ・・・はい』

ベンチの端に寄る。

菊川『いや、さすがにここだとアレだから向こうの・・・あ、悪い・・・ちょっと待ってて』

携帯電話を取り出す。
偶然なのか、オレと同じ機種の色違いだった。
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