ある夏の記憶(澄谷)

オレ達が入学した年のキャプテンが、六道聖先輩。
みずき先輩は既に卒業しており、一つ下の学年にもマネージャー以外の女子部員はいなかったが、オレ達の学年に二人の女子部員がいた。

一人が、今日一緒に来ている城咲円。
女子ながら力強い打撃を誇り、海外の独立リーグを経て今は日本の女子リーグに所属している。

そしてもう一人は、三国沙織(みくにさおり)。
今、目の前に記されている名前だ。

学生時代の思い出は美化されると言われるが、オレはそうではない。
思い出す度に後悔し、考え込む。
それは何年経っても変わらない。

当時、オレがセンターで円がサード、拓哉がピッチャーだった。
沙織は事情があり公式戦には出られなかったが、マネージャーと共に皆のサポートをしていた。

甲子園にこそ行けなかったものの、毎年そこそこの所まで行った。
皆と野球をする事が楽しかった。

そして迎えた最後の夏。
カードにも恵まれ、オレ達は勝ち進んだ。
ついに甲子園出場を決めたオレ達を待っていたのは、最悪の知らせだった。

決勝戦、沙織は姿を見せなかった。
正確には、その一週間位前から学校を欠席していた。

甲子園での事は良く覚えていない。
とにかく暑くて、やたら騒がしかった。

誰も土を持ち帰ろうとしなかったのだけは覚えている。
円とマネージャーが、学校への土産と沙織の墓前に届ける為の土を持ち帰った位だ。

帰りのバスでも、皆無言だった。
早く帰って、休みたかった。
8 / 12
8/24ページ