ある夏の記憶(澄谷)

高校からプロ入りしたオレは、5年目のシーズンを終えた。

聖(セント)タチバナ学園。
それがオレ達の通っていた高校の名前だ。

毎年甲子園に出場するような強豪校ではないが、そこそこ知名度はある方だろう。
『聖』とあるが、特に宗教的な制約がある訳ではない。
オレや円が入部した時のキャプテンは女子、しかも寺の一人娘だった。

この学校の知名度を上げているのは、プロ入りした選手達の活躍だろう。
中でも女子選手の活躍は目覚ましい。

一人はキャットハンズの中継ぎエース、橘みずき先輩。
マサキにあげたキャットハンズのガイドブックで表紙を飾っていたように、今やチームの顔ともいえる存在だ。

独特のフォームから繰り出される変化球で、打者のペースを狂わせる。
今シーズン彼女からサヨナラホームランを打ったが、しばらくは顔を合わせる度に睨まれた。

同期のワタルが、来年からチームメートになる。
苦労しなければ良いのだが。

そしてもう一人がバルカンズの正捕手、六道聖(ろくどうひじり)先輩。
オレ達が入部した時のキャプテンだ。

橘みずき先輩と違い、彼女は大学からプロ入りした。
その為、プロとしてはオレの方が2年長い。

当初あまり評価は高くなかったが、昨季から正捕手に定着している。
緻密なリードと守備は高い評価を得ており、打撃でもそこそこの成績を残している。

性格が似ているとみずき先輩に言われた事があるが、あまり実感が無い。
少なくとも、食べ物の好みは違うだろう。
部活終了後に聖先輩お気に入りの店に行った事があるが、先輩が卒業してからは行っていない。

確か『パワ堂』とかいう店だったか。
・・・思い出すだけで胸やけがする。
拓哉は気に入ったみたいでおかわりまでしていたが、オレには甘過ぎた。
円も微妙な表情を浮かべていたので、後で聞いたらオレと同じ感想だった。

もう一人、みずき先輩の同級生でキャットハンズ入りした先輩がいる。
ここ近年は4番に定着しており、貧打と呼ばれるキャットハンズ打線の中で孤軍奮闘している。

聖先輩から彼の話を聞いた事があるが、高校時代はみずき先輩に散々な目に遭わされてきたらしい。
変な噂まで流れて大変だったそうだ。
今年のオールスターで口喧嘩しているのを見たが、今はどうなのだろうか。
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