ある夏の記憶(澄谷)

一時間経って、ようやく拓哉が来た。

マネ『久しぶり~』
瀬名『ういーす。お、マサキ』
澄谷『おう』

部員達が声をかける。
円の方を見ると、相変わらずムスッとした顔をしている。

瀬名『よう!メジャーリーガー様のお出ましだー』
城咲『バカ言ってんじゃないわよ!まず言う事あるでしょ?』
瀬名『すんませんでした・・・』
城咲『ったく・・・』
マネ『まあまあ・・・』

しょぼくれている。
ちなみに拓哉が自分で言った『メジャーリーガー』という肩書は間違っていない。

瀬名拓哉(せなたくや)。
オレ達の同級生で、140km後半の速球で攻めていくタイプのピッチャーだ。

高校卒業後、拓哉と円はアメリカの独立リーグに入団した。
その後、拓哉はメジャー傘下の球団にスカウトされ、マイナー契約。
そして去年、ついにメジャーに昇格し初勝利を挙げた。

瀬名『いやー、みんな変わってねーなー・・・』
城咲『誰のせいで遅くなったと思ってんのよ!さっさと歩く!!』
瀬名『わ、分かったから引っ張るなって!』

そのまま腕を引っ張られていく。
そして二人を先頭に、歩き出した。
この二人、一時は親密な関係だったらしいが今はどうなのだろうか。

??『マサキ君、私達も行きましょう』

声が聞こえた。
習慣的に手を差し出す。
そこまでしてハッとした。
隣を見てみるが、誰もいない。

澄谷『・・・』

あまりに皆が高校時代のままなので、『彼女』もそこにいると錯覚してしまったのか。
さっきの会話ではないが、オレには本物の幻聴が聞こえてしまったようだ。

『マサキ、早く行こうぜ』
澄谷『あ、ああ・・・』
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