cyan(菊川)

手動のガラスドアを開け、中に入る。
白衣を着た女が一人で店番していた。
髪をアップにしており、年はオレと同じか少し若い位だろう。
誰かさんと違い、胡散臭くはない。

??『いらっしゃいませ~・・・あれ、もしかして菊川君じゃないデスか?』
菊川『・・・?』

店番の女が親しげに話しかけてきた。
どうやらこの女は、オレの知り合いらしい。

??『むむ・・・メグミの事忘れちゃったんデスか?薄情な人デスね・・・』
菊川『・・・』

途端に不機嫌になる。

??『グスン・・・いいデスいいデス・・・。こうしてメグミは誰からも忘れられていくのデスね・・・』

今度は泣き顔になる。
・・・何なんだこの女は。

だが、何となく覚えはある。
この独特の口調、そして一人称。

菊川『・・・鈴原か?』
鈴原『やっと思い出してくれたんデスね!メグミ、嬉しいデス』

今度は笑顔になる。
つられて少しだけ笑ってしまう。

鈴原『それで菊川君。今日は何をお探しデスか?』

鈴原恵(すずはらめぐみ)。
高校時代の同級生で、野球部のマネージャーの一人だった。

菊川『パワリンを、と思って』
鈴原『はーい、少々お待ち下さいデス』

奥へ下がってしまう。
少しして、小瓶を手に戻ってきた。

鈴原『お待たせデス』

カウンターに小瓶が置かれた。
その小瓶を見て、オレは言葉を失った。

菊川『SPゴールド・・・EX?』
鈴原『特別デス』

パワリンSPゴールドEX。
一般的に流通しているパワリンはノーマルかDXがほとんどで、たまにEXを見かける位だ。
DXというのは瓶を1.5倍(当社比)の大きさにしただけの代物で、中身はノーマルと変わらない。

菊川『・・・』

ゴールド以上になると特定の顧客にしか販売せず、一般向けにはほとんど流通しない。
ゴールドのさらに上がゴールドEX。
そして今目の前に置かれているSPゴールドEXは、オレ達みたいな人間でも目にする事が少ない貴重品だ。

鈴原『こっちに座って飲むデス』

革張りの長椅子に案内された。
鈴原も自分の物を持って隣に座る。

鈴原『グイッといくデス』
菊川『いただきます・・・』
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