ある夏の記憶(澄谷)

何気なく携帯電話を見てみた。
画面の中で『彼女』が笑っている。
しばらく画面を見てると、いきなり着信が来た。

??『マサキ、今大丈夫?』
澄谷『・・・ああ。円か』

城咲円(しろさきまどか)。高校の同級生で野球部のチームメート。
高校卒業後に海外の独立リーグでプレーしていたが、今は日本の女子リーグに所属している。

城咲『明日、空いてる?』
澄谷『明日?特に予定は無いけど』
城咲『だったらさ、久しぶりにあの娘の所行かない?そっちからは少し遠いけど』
澄谷『・・・』

返答に詰まる。
確かに飛行機か新幹線が必要な距離だが、問題はそこではない。

城咲『大丈夫よ、ちょっと会いに行くくらい』
澄谷『・・・』
城咲『とりあえず、明日12時に例の駅ね』

既に予定は決まっているみたいだ。
早い時間の飛行機なら何とか間に合うだろう。

澄谷『・・・分かった。アイツは来るのか?』
城咲『・・・うん。何日か前に帰ってきたって』

少し口調が変わった。

澄谷『そうか。よろしく伝えてくれ』
城咲『わ、分かったわ。じゃあね』

電話は切れた。
再び画面に『彼女』が写る。
あの日から一度も待受画面を変えてない。

前にワタルに見られた事があったが、特に何も聞いてこなかった。
もしかしたら、ワタル自身にも聞かれたくない何かがあるかもしれない。

ならば、お互い聞く事はしない。
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