cyan(菊川)

『今日のヒーロー、菊川尚志選手でした!ありがとうございましたー!!』

アナウンサーの声を合図に、一斉にフラッシュの光が浴びせられる。
今日は2打数2安打、勝利打点のオマケ付きだ。

上野『おめでとう、菊川君』
菊川『ありがとうございます』

セカンドの上野先輩に肩を叩かれる。
移籍した時に色々お世話になったのが、この上野良人(うえのよしと)先輩だ。

芦谷『センパイッ!おめでとうございます!!』
菊川『おう』
勇村『乾坤一擲の一打、見事じゃったぞ!』
菊川『ありがとうございます』

後輩の芦谷翔(あしたにかける)、大ベテランの勇村武士(いさむらたけし)先輩。
ようやく、ここでの日々が日常になりつつある。

元々、同じレ・リーグのパワフルズに所属していた。
パワフルズがまだセ・リーグだった頃に入団。
首位打者も獲得し、チームの将来を担う打者として期待されていた。

しかし、数年前のオフに練習とは関係ない事で怪我をしてしまう。
7月に復帰するも守備で以前のような動きはできなくなり、代打での起用が続いた。
翌年にはパワフルズのオーナーが交代。
新たなオーナーは事ある毎に数名の選手を名指しで批判、その中には自分も含まれていた。

そして、去年。
2軍スタートとなったオレは、交流戦の途中に昇格した。
しかし、その年の9月にオーナーが来期の契約を結ばない事を明言。

クライマックスシリーズにも出場するが、第一ステージであえなく敗退。
パワフルズでの日々は、呆気なく終わりを告げた。
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