cyan(菊川)

携帯電話の画面を見る。
メールの返信でも打とうかと思ったその時、着信が入った。

??『お疲れー』
菊川『・・・藍美か』
藍美『楠葉はちゃんと送り届けた?』
菊川『ああ。こっちは今ホテル』

ホテルといっても、昨日まで滞在していたホテルではなく全国チェーンのビジネスホテルだ。
シングルルームのベッドに身を預けていた。

藍美『ホテルねぇ・・・。実は、隣で楠葉が寝てたりとかしない?』
菊川『するかっ』
藍美『本当かな~?まあいいや。それでどうだった、例の店?』

あの後、萱島の住んでいるマンションを経由して駅前のホテルまで来た。
明日は本拠地で試合なので、朝一で帰らなくてはならない。
モーニングコールだけでなく、携帯電話のアラームもセットしておいた方が良いだろう。

菊川『一応、調べる必要がある』
藍美『何か問題でも?』
菊川『店員に三国グループ社長の娘がいた』

日本を代表する企業グループ、三国グループ。
不動産業を中心に、様々な分野に進出している。
かつてはバルカンズと同時期に設立されたバスターズの親会社でもあった。
社長には3人の娘がいたが、一番下の妹は既に他界しているらしい。

藍美『・・・どっち?』
菊川『由利(ゆり)って名乗った』
藍美『念の為、特徴を教えて』
菊川『髪は黒くて背は萱島と同じ位・・・あと、高校の制服を着ていた』

ちなみに、長女の名前は《沙織(さおり)》で萱島よりも背は高い。
長期入院していたか何かで、現在は中学校に通っているらしい。

藍美『間違いなさそうね・・・制服を着てたって、まさかそういう店?』
菊川『いや・・・店長がオカマで店内が怪しい調度品だらけで、それ以外は到って普通の店だ』

あれだけの財力があれば独自に勉強を教える事くらい訳も無いとは思うが、どうも良く解らない。
リーダーに聞いても『本人がそう希望したんですよ、きっと。良いですね~、青春時代・・・』と、的の得た解答は得られなかった。

藍美『・・・どこがよ。第一、女子高生が制服のまま接客する店のどこが普通なのよ?』
菊川『上にエプロン着けてたし、単に面倒臭かっただけじゃない?確か恋恋高校って、そんなに遠くでもなかったし』

さらにリーダーは『もう一回制服着たいな~。ねえ尚志君、私が制服着たら似合うと思いますか?』と聞いてきた。
オレがどう答えようか迷っていると『・・・歳、考えたら?』と藍美に冷たく返され、『・・・藍美ちゃん?』『ご、ごめんなさい・・・』
といった感じで、完全にうやむやになってしまった。

藍美『・・・絶対にそっち目的の客もいそうね』
菊川『かもな。店から少し離れた所にSPらしいのが数人いた』

通行人やカップルを装っているつもりだったのかもしれないが、明らかに雰囲気が違っていた。
他の人間はともかく《班》の人間ならすぐに見分けが付く。

藍美『三国グループ?』
菊川『多分。前に誘拐されかけたらしいし』

その時助けたのが、現在野球部の監督をしている元キャットハンズの藤乃なつきという女だ。
アイツやあの女とも知り合いらしい。
1 / 13
10/49ページ