cyan(菊川)

機械から無機質に打ち出されるボールを、二人の女が打っている。

藍美『・・・えいっ!』

オレと藍美、そして萱島樟葉の三人はバッティングセンターに来ていた。
そこそこの速さに設定されたボールを、藍美は左右交互に打ち返している。
まともに野球を続けていれば、NPB初の女性野手となっていた可能性もあった・・・というのは考え過ぎか。

萱島『・・・ん!』

萱島の方も、初めは当たり損ねが多かったが今では上手くコンパクトに打ち返している。
施設にいた時に、男子に混じって野球をやっていたらしい。

菊川『・・・』

そしてオレはというと、荷物番も兼ねて二人の様子を眺めていた。
月曜の昼間という事もあり、人はそれ程多くない。
女二人以外では、大学生位の男が一人打っているだけだ。
鋭い打球が飛ぶ事もあるが、空振りや当たり損ねも多い。
まずはフォームをしっかり固めるのが先決だろう。

藍美『ふいーっ・・・』

藍美が出てきた。
さすがに白衣は着ていない。
自販機でスポーツドリンクを買っている。

藍美『半分飲む?』
菊川『遠慮しとく』

隣に座り、ペットボトルのスポーツドリンクを飲み始めた。
萱島の方を見ると、相変わらず無我夢中で打っている。

菊川『・・・血の繋がりはあるのか?』
藍美『遠い親戚って事だけど・・・あまり信用できないわね』
菊川『・・・そっか』

メディアを通して、って事ならば化粧でごまかせば問題無いだろう。
バットを持って構える姿は、なかなか様になっていた。

藍美『良いお尻してると思わない?』
菊川『ノーコメント』
藍美『反応悪いわね・・・メガネなんて、いきなり触って引っぱたかれてたわよ』
菊川『・・・で、そのメガネは?』

言われてみれば、今日は見ていない。
別に会いたくもないが。

藍美『多分、ゲームショップ』
菊川『何かの発売日?』
藍美『新作のソフト、明日発売だって』
菊川『こんな時間から並んでるの?』
藍美『一昨日の朝からだって』
菊川『・・・』

集団で並んでいるその光景を想像してみた。
シャワーくらいは浴びてるのだろうか。

藍美『明日から遠征でしょ?伝言あるなら伝えとくけど』
菊川『伝言・・・そうだな、《あまり人の鞄を漁るな》って伝えといてくれ』
藍美『・・・念の為聞くけど、誰の?』
菊川『オマエの』

男の鞄を漁るような趣味のある人間とは、知り合いになりたくもない。
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