cyan(菊川)

藍美『バッセンのタダ券あげるから、機嫌直してよ~。ほらっ』

白衣の懐から《1ゲーム無料!》と印刷された紙きれを何枚か取り出し、寄越してくる。
仮にもプロ野球選手のはずのオレが、どうしろというのだろうか。
だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。

藍美『ね?』
菊川『・・・どうせオマエも来るんだろ?』
藍美『当ったり前でしょ。藍美ちゃんの華麗なバッティング、披露してあげるんだから』

この女、リトルまで野球をやっていたらしい。
共通の話題があるので、お互い退屈しのぎにはなる。
実際にバッティングは、(一応)プロのオレから見ても上手い部類に入る。

菊川『だったらこんな所でマッドサイエンテストごっこなんかやってないで、クラブチームにでも入ったら?』
藍美『クラブチーム?』

改めて藍美を見てみる。
似合わない白衣を着ているせいか、少々うさんくさい。
まだ未成年のはずだが怪しい女科学者、という表現がピッタリ合う。

菊川『ゴールデン何とかっていう、お笑い芸人が監督やってるチーム』
藍美『ああ・・・確か、女の子一人いたわね』
菊川『入ればスポンサー付くんじゃない?』
藍美『スポンサー?』
菊川『そう。例えば、ボッタクリーン紫香楽とかオンボロ工業藍美とか』

ちなみに公式戦では、スポンサー付き登録名やマイクパフォーマンスといった事は不可らしい。
考えてみれば当たり前の話だ。

藍美『・・・まともなのは無いの?』
菊川『スケスケランジェリー藍美』
藍美『・・・最っ低』
萱島『あの・・・』

それまでオレ達のやり取りを聞いていた萱島が、遠慮がちに口を挟んでくる。

藍美『ん、どうしたの?早くもコイツに愛想でも付いた?』
菊川『・・・指を差すな』
萱島『あの・・・そうじゃなくて、私もバッティングセンター・・・ご一緒しても良いですか?』
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