cyan(菊川)



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Wataru Kurihashi
偽りの姫君
??『どういう・・・事ですか?』

そう言いながら、一歩近付いてきた。
彼女のこんな表情を見るのは初めてだ。

菊川『・・・何が?』

あえて、そう聞いてみた。
あの女はこうなる事を、あらかじめ予見していたのだろうか?

??『約束・・・したじゃないですか』

さらにもう一歩近付いてきた。
夕方という事もあり、それほど人は多くない。
聞こえるのは、空調のコンプレッサー音だけだ。

菊川『約束?』

そう聞き返すと、彼女は無言で詰め寄ってきた。
以前もこんな事があったのを思い出す。
その時の相手は彼女ではなくアイツで、詰め寄ったのはむしろ自分の方で・・・それから、酷い目に遭った。

??『・・・何がおかしいんですか?』

どうやら、顔に出てしまったらしい。
あの後、数日間はやけにしおらしかったのを思い出す。

??『・・・尚志君?』

そんな事を考えている内に、彼女はさらに近付いてきた。
手を伸ばせば触れる距離・・・ではなく、既に一部が触れている。

菊川『・・・』

黙って目の前の女性を見つめてみた。
歳は・・・よく分からない。
オレと同じ、30前後に見える時もあれば20代に見える時もある。

??『ん・・・!』

しばらく見つめていると、ほんの少しだけ後ろに下がった。
水色のリボンが風ではためいている。

??『・・・尚志くぅん?』

意を決したように、再び近付いてきた。
そのまま、オレに身体を寄せてくる。
そして、彼女はこう言った。

??『・・・血縁者や親族には干渉しないって約束でしたよね?』
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