財閥の娘(栗橋)

例の試合から少し後の事だった。

??『栗橋君、お疲れ』
栗橋『あ・・・お疲れ様です、菊川さん』

この日は本拠地でバルカンズとの試合だった。
今年からバルカンズに移籍した菊川さんは、スタメンで出る試合こそ減ってはいたが高い打率をキープしており、代打としての怖さは健在だった。

菊川『それで、栗橋君』
栗橋『はい』
菊川『ちょっと、話をしてみたいんだけど・・・良いかな?』
栗橋『あの・・・今からですか?』

過去に首位打者を獲った事もあり、知名度は高い。
当然、オレも名前は知っていた訳だがこうして会話するのは初めてだった。

菊川『いや・・・できれば次の移動日辺りにどうかな?場所はこの辺りで良いから』
栗橋『えっと・・・どういった事でしょうか?』

さすがに少し警戒してしまう。
いくら大先輩とはいえ、これまで接点はほとんど無い。
共通点も、左の外野手で今年チームを変わった事の2点くらいだ。
そして何より、去年嫌な目に遭った事絡みかもしれない。

菊川『あ、宗教とかそういう話じゃないから』
栗橋『え・・・はい』
菊川『むしろ、今キミが一番気になっている事・・・その事を話してみたい』

そこまで言うと、連絡先とアドレスの書かれたメモを握らせてベンチへと引き上げてしまった。
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