新天地へ(栗橋)

覗き穴を見てみる。
見慣れた顔がそこにあった。
ドアを開け、招き入れる。

栗橋『悪いな、散らかってて』
??『いや・・・大丈夫だ』

コイツは澄谷正己(すみたにまさき)。
オレと同期の外野手だ。

栗橋『ほれ』
澄谷『悪いな』

冷蔵庫に入っていたペットボトルのお茶を出す。
マサキは今年、大活躍だった。
あと一歩の所で、首位打者は逃したもののベストナインはほぼ確実だと言われている。

澄谷『部屋は見つかったか?』
栗橋『良さそうな物件が幾つかあるから、決まったらメールするよ』

活躍したのは俺の方が先だった。
1年目から二軍の試合に出ていたオレに対し、マサキは体作りの為、代打で数試合出ただけだった。

3年目には二軍で上位打線を打つようになっていたマサキだが、その年オレはほとんど一軍だった。
4年目、マサキは一軍と二軍を行ったり来たりだった。
オレは一軍にいる期間の方が長かったが、二人共、一軍では散々な成績だった。

そして今年。
5月頃からスタメンに定着したマサキは、夏場には規定打席に到達し、熾烈な首位打者争いを繰り広げた。
オレはというと・・・散々というか、さっぱりだった。

澄谷『すまないが・・・もう一杯』
栗橋『おう』

お茶を注いでやる。
同期という事もあり比較されたりもするが、今までマサキに劣等感を抱いた事は一度も無い。

口数が少ない為に誤解され易い奴だが、真摯に練習に取り組み、ファンに対しては最後の一人までサインをする。
一言で言うのは難しいが、マサキとはそういう奴だ。

同じユニフォームを着れなくなるのは残念だが、来年のオールスターには揃って出場したい。
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