財閥の娘(栗橋)

なつき『くー・・・』
矢部『寝ちゃっているでやんす』

二人が外に出てすぐに、藤乃さんは再び眠りについた。

みずき『そこのソファに寝かせましょう。楠葉、手伝って』
萱島『分かりました』
なつき『・・・くぅ・・・すぅ・・・』
ユリ『お待たせしましたー』

藤乃さんをソファに寝かせる。
あの後、5分程して二人が戻ってきた。
三国さんの表情が少し硬かったのが気になったが、みずき先輩が肩を軽く叩くと頷いてカウンターへ戻っていった。

矢部『お腹ペコペコでやんす。早速いただくでやんす』
萱島『空いてるお皿、まとめときますね』
ユリ『あ、どうもすみません・・・って先生、また寝ちゃってますね』
なつき『・・・ふにゃ・・・』
みずき『なつきの事もそうだけど、店長が戻ってこないってこの店ではよくある事なの?』

一体何処へ行ってしまったのだろうか。

ユリ『そうですね。買い出しに時間がかかる事も時々は・・・』
萱島『あれで、食材には結構こだわってるって聞きましたよ』
矢部『まさにプロでやんす』
ユリ『でも、何時間か後に帰ってきて《カッコイイ男の人に誘われちゃってぇ~》って体をクネクネさせて、私が《食材は?》って聞くと慌てて買いに戻るって事、結構ありますよ』
みずき『ダメじゃん・・・』
栗橋『・・・』

いつか《都合により、しばらく閉店します》とならない事を願いたい。

ユリ『あの、萱島さん・・・』
萱島『もぐもぐ・・・ん、なぁに?』
ユリ『萱島さんって女子リーグの出身なんですよね?』
萱島『う、うん・・・。もしかして、ユリちゃんも興味あったりする?』
ユリ『もちろん、色々と・・・。じゃなくて、私もトライアウト受けようと思っているんです』

一瞬三国さんの眼が妖しく光ったような気がしたが、何かの見間違いだろう。

萱島『そうなんだ。まあ、ユリちゃんなら・・・確か実家もそっちの方だよね?』
ユリ『はい』
栗橋『実家?』
矢部『三国って・・・まさかあのミクニでやんすか?』
ユリ『えっと・・・まあ・・・』

三国さんが少し困惑したような感じで答える。
矢部君の眼鏡が凛々しい形に変わった。

矢部『オ、オイラ矢部明雄でやんす。末永い付き合いを・・・グギャ!でやんす~』
みずき『・・・ったく』
ユリ『あはは・・・』

久々に例の棒が出てきた。
常に持ち歩いているのだろうか?
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