財閥の娘(栗橋)

栗橋『この声は、萱島さんと・・・みずき先輩?』
矢部『あっちの方からでやんす』

楽しくガールズトーク・・・と表現するには、少し緊迫し過ぎている。
とりあえず、声の聞こえる方に行ってみた。

みずき『だから、どうして先にそれを言わなかったのよ?』
萱島『みずき先輩なら既にご存知かと思って・・・』
みずき『こうしちゃいられないわ、行くわよ!』

みずき先輩が勢いよく立ち上がる。
ガタンと音を立てて椅子が倒れた。

萱島『行くって・・・?』
みずき『決まってるでしょ、その行きつけの店よ!案内しなさい!!』
萱島『い、今からですか?』

倒れた椅子を直しながら、困惑の表情を浮かべている。

みずき『当たり前でしょ!ほら!!』
萱島『えっと・・・あ、先輩』

ようやく彼女達がこちらに気付いた。
その間にもみずき先輩は、萱島さんの手を引き無理矢理にでも連れて行こうとしている。

みずき『あら、ちょうど良かったわ。夜道に女2人だけっていうのも危険だし、アンタ達もお供しなさい』
矢部『むしろ相手の方が危険な気がするでやんす・・・』
栗橋『や、矢部君!』
みずき『・・・何か言ったぁ?』
矢部『な、何でもないでやんす』
みずき『ほらっ、さっさと行くわよ!』
萱島『今日はもう遅いですし・・・』
みずき『まだ11時前!夜はこれからよ!!』
萱島『・・・いーーやーーー!!』

そのままズルズルと引きずられていってしまった。
萱島さんの叫び声が遠のいていく。

??『こうなったみずきは、もう誰にも止められない・・・』

後ろから声が聞こえた。

??『何かあってからは遅いからな。オレも行くよ』
矢部『千人の味方を得たようでやんす』

オレも同じ気持ちだった。
矢部君が絶賛するこの人は、伊勢崎怜(いせざきりょう)先輩。
みずき先輩と同期で、同じ高校の出身だ。
先輩いわく、あれでも高校時代と比べると大分おとなしくなったらしい。

伊勢崎『急ごう。見失ったら大変だ』
栗橋『はい』
矢部『やんす』

貧打と言われるキャットハンズにおいて、去年は唯一打率3割、そしてホームラン2ケタを記録している。
みずき先輩と並ぶチームの看板選手であり、オレ達にとっては大先輩だ。
かといってそれを鼻にかけるような所も全く無く、後輩を指導する為に自分の時間を割く事も躊躇わない。
そして今日も見事な決勝3ランを打っていた。
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