財閥の娘(栗橋)

??『あの・・・すみません』

女の人の声がした。
その声に、聞き覚えがある。

??『キャットハンズの栗橋選手・・・ですよね?』
栗橋『はい・・・あれ?』

2月のキャンプ先で会った、ツインテールの娘だった。
当然といえば当然だが、今日は夏の装いだ。

??『あの時は、本当にスミマセンでした』
栗橋『いや、大丈夫』

頭を下げてくる。
むしろ役得だった・・・とは口が裂けても言えない。
考えてみれば先程の騒ぎも、結果ああなったとはいえオレの事を助けてくれようとしたのだろう。

??『携帯電話・・・無事に戻りましたか?』
栗橋『うん。御礼言っておいて』
??『あ、はい・・・良かった』

無事に戻ったと分かった為か、ホッとしている。

栗橋『今日は、あの娘と一緒じゃないの?』
??『サオリですか?いえ、今日は・・・もしかして何か迷惑かけたりしてませんか?』
栗橋『いや、全然。さっき見かけただけだから』

本当は騒ぎに巻き込まれたのだが、この娘に余計な心配をかけない方が良いと思った。

??『え!?その・・・どちらに行ったか分かります?』
栗橋『確か・・・あっちの方かな?』

あの後サオリの方も用事があるらしく、何処かに行ってしまった。

??『ありがとうございます。ちょっと探してみます』

頭を下げ、小走りで去っていった。
ツインテールがパタパタとなびいている。

栗橋『・・・』

考えてみたら今は、待ち合わせをしている所だった。
時間はとっくに過ぎているのに、来る気配がない。
携帯電話を見てみる。

栗橋『うわ・・・』

メールが一通
《ココドコ(T T)》
と、あった。

栗橋『・・・』

仕方なく、オレは電話をかける。
何回目かの呼び出し音の後、相手が出た。

栗橋『もしもし、今何処にいるの?』

そこから動かないよう伝え、オレはその場所へと向かった。
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