財閥の娘(栗橋)

・・・疲れた。
一人、路地を歩きながらオレは先程の騒動を思い出していた。

栗橋『・・・』

ちょうど神社の前を通り過ぎる。
おみくじを引けば、間違いなく《女難の相有り》と書かれているだろう。
多少うんざりしながら、そんな事を考えていたその時だった。

??『やんすっ?』

前方に全く注意がいってなかったオレは、前から来た人とぶつかってしまった。
相手の男が尻餅を付いてしまっている。

栗橋『あ、すみません・・・って、矢部君?』

相手の顔を見て驚いた。
まさにそこにいたのは、高校時代の同期で今年からチームメイトの矢部君だった。

栗橋『今日はライブ行くって言ってなかったっけ?確か・・・南条』

聞く所によると今度、アルバムと写真集が同時発売されるらしい。
何か特典があるらしいが、一体幾つ買うのだろうか。

??『・・・失礼な人でやんすね。オイラはアイドルなんか興味無いでやんす。第一、矢部って誰でやんすか?最近ホントによく間違えられるでやんす』

人違いらしい。
確かによく見ると眼鏡の形が若干違うし、似ているとはいえ声のイントネーションも少し違う。

栗橋『・・・すみません』
??『別に構わないでやんすよ。オイラ、実はこれからデートなのでやんす』

眼鏡が嬉しそうな時の形になっている。
人違いとはいえ、あまりにも共通点が多い。

??『まさにリアルばきメモでやんす。そしてその後は・・・ムホーでやんす!ムヒョーでやんす!!』
栗橋『・・・』

似たような台詞をどこかで聞いたような気がする。
そんな事を考えているうちに、矢部君によく似た眼鏡の人は何処かへと消えてしまった。
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