財閥の娘(栗橋)

??『・・・ひょっとして、わざとやってるの?』
サオリ『何がですか?』
??『・・・貴女みたいなの、何て言うか知ってる?』
サオリ『さあ?』
??『痴女よ、痴女。痴漢の女バージョン』

その言葉を耳にした瞬間、サオリの顔付きが変わった。
平静を装ってはいるものの、眉がピクピクと動いていてちょっと怖い。

サオリ『ま、またしても・・・あの娘に言われるのならともかく・・・』
??『あら、覚えがあるの?』
サオリ『・・・』

プルプル震えているのがダイレクトに伝わってくる。
逃げたいのだが、腕を掴まれており抜け出せそうにない。
キャンプの時は気付かなかったが、細いように見えて意外と筋肉質だ。
何かスポーツでもやっているのだろうか。

??『ほら、いい加減に・・・』
サオリ『やめて下さい・・・この年増』
栗橋『あ・・・』

女性には絶対に言ってはならない言葉が聞こえた。
黒スーツの女性からオーラのような物が見えたのは気のせいだろうか。
以前、みずきさんがこの言葉で野次られた時は大変な騒ぎになってしまったのが記憶に新しい。

??『年増ですって・・・?私、まだ27なんだけど?』
サオリ『四捨五入したら30じゃないですか。アラサーですね、アラサー』
??『アンタねぇ・・・』
栗橋『あわわわ・・・』

女性には絶対に言ってはならない言葉、その2が聞こえた。
自ら墓穴を掘ってしまった黒スーツ女の邪悪なオーラが、さらに強くなった気がする。
子供って残酷だな・・・と、連続四球を出して降板したみずきさんを見ながら思ったものだ。

サオリ『何ですか?年増のお姉さん』
??『・・・黙りなさい、この痴女』
サオリ『言ったわねぇ・・・』

白い服と黒い服の女が向かい合う様は、まるで天使と悪魔のようだ。
もっとも、オレには二人共悪魔にしか見えないが。
そして、その悪女二人に対してオレがやるべき事を思い出した。

栗橋『あの、二人共ちょっと良い?』
??『・・・何?』
サオリ『・・・何ですか?』

つかみ合いを始めてしまった女二人に、周りを見るように促す。

??『あ・・・』
サオリ『う・・・』
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