新天地へ(栗橋)

キャットハンズの秋季キャンプに数日間参加した後、球団事務所で契約事項の確認を行うように言われた。
契約内容を確認し、サインをする。
オレは新たなシーズンをキャットハンズで迎える事となった。

正直、半信半疑だった。
トライアウトで、結果を残したとは言い難い。
ホームランを打った人が2人いたが、どこの球団からも声はかかっていないらしい。

後日、知り合いの記者と食事をする機会があったので少し尋ねてみた。
彼に聞いた話を要約すると、こんな感じだ。

トライアウトを見に来るスカウトは、欲しい選手のタイプをある程度決めてある。
例えば、左の中継ぎ、足のある外野手、経験のある捕手、といった具合だ。
オレの場合は左の代打という条件に当てはまり、なおかつ年齢が若いのがプラスになったらしい。

しかし、と前置きした上で彼はこう続けた。
例えば、年齢も成績も同じ位の二人の選手、どちらかをクビにしなければいけなくなったとする。
一人は生え抜き、もう一人は移籍。
その場合切られるのは、間違いなく移籍組の方だと。
そして君は、来年から移籍組となる。
この意味を考えろ、と少し厳しい表情で言った。

オレが難しい顔をして考え込んでいると彼は伝票を手に立ち上がり、次は奢ってくれと言い残し店を出てしまった。

来年からは一年一年が勝負の年になる。
そう決意を新たにしたその時、来客を告げるインターホンが鳴った。
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