出会いと再会(なつき)

その時だった。

??『や~んす!』
??『あ・・・』

突然、眼鏡の男が叫びながらこっちに向かって走ってきた。
両手を拡げ、私に抱きつこうとしている。
考えるより先に身体が動いた。
まず、眼鏡男の肩を掴んで動きを止める。そして・・・

なつき『・・・ハァッ!』
??『ギニャアアアァァァでやんすぅぅぅ・・・!!』

股間に渾身の膝蹴りを見舞う。
眼鏡男が昏倒し、悶え苦しむ。

ユリ『うわぁ・・・久しぶりに見ました、おしおき技その3・・・』
??『・・・や・・・ん・・・す』

久々に封印を解いたような気がする。
・・・いや、問題はそこではない。

??『だ、大丈夫?矢部君・・・』
??『オイラのガンダーキャノン、今日一杯は使用不能でやんす・・・』
??『使う予定あるんですかぁ?』
??『さりげなくヒドイでやんす・・・』

『やんす』
私はこの語尾を使う人物に覚えがあった。
今のやりとりを聞いても間違いないだろう。

矢部明雄(やべあきお)。
私が一年間だけ所属していたキャットハンズの外野手。
プロとしては矢部が一年先輩だが、年齢は私の方が三つ上だ。

普段の言動だけを見ると、とても野球選手とは思えない。
ある日、クラブハウスに大量のスナック菓子とカップラーメンがダンボールの箱ごと置いてあった。
球団が購入した物ではなく、矢部が景品目当てに大量に購入したらしい。

確かによく見ると、ロボットアニメか何かの名前が付いた商品だった。
スナック菓子の袋にはカードを剥がした跡があり、カップラーメンを食べ終わったらフタを洗って回収箱に入れて欲しいとの事だった。

私は結局食べる事は無かったが、他の皆や監督コーチまでもが結構食べていたらしい。
・・・今はむしろ欲しいくらいだ。
一食浮くし、ラーメンなら作るのも面倒臭くない。

何回か虫が湧いて騒ぎになった事もあった。
半分位残ったスナック菓子をそのまま放置したり、汁が残ったラーメンの容器を洗わずに置いていたのが原因だ。
クラブハウス内に充満したカレー味の濃厚な臭いは、今も忘れられない。
6 / 9
6/24ページ