紀三井寺『えっとね、今日来てくれたファンの人なんだけど・・・』
翡翠『たまに来る、熱狂的なカナさんファンの人ですか？赤いジャージ着た、ちょっと汗臭い・・・』

試合後のサイン会では、選手以上に長い列ができる事も珍しくない。
アイドル顔負けのルックスでファンの人とも気さくに話すので、カナさん目当てに通う人も多いと聞いた。

紀三井寺『学校の先生してるって聞いたけど、やっぱり体育の先生なのかな～？』
翡翠『あの人、結婚してるらしいですよ？しかも相手は教え子みたいで・・・』
紀三井寺『えーっ！？凄いなぁ・・・じゃ、なくて』
翡翠『違うんですか？』
紀三井寺『うん。それはそれで、次会った時イジっちゃうかもしれないけど～』

スタッフに交代を促されるまで延々と話し込む、少し困った人も中にはいたりする。
それでも笑顔を絶やさないのが、カナさんの凄い所だ。

翡翠『あの、高校生っぽい女の子ですよね？』
紀三井寺『うん。正確には、一緒にいた娘なんだけどね』
翡翠『誰か、一緒にいましたっけ？』

私が見た時には、彼女一人しかいなかった。
女子野球界では割と有名な存在で、しかも実家は相当な大金持ちらしい。

紀三井寺『うん。お見送りの時にはいなかったんだけど、白い服着た背の高い娘が隣に座ってた』
翡翠『どの辺ですか？』
紀三井寺『ウチのベンチの真上辺り。背が高い、っていっても翡翠ちゃんよりは少し低かったかな？』
翡翠『これ位、ですか？』
紀三井寺『そうそう、それくらい。何となく、雰囲気は似ていたかな？』
翡翠『じゃあ、お姉さんでしょうか？』
紀三井寺『うーん・・・それがね、よく分からないんだよね～』
翡翠『・・・』

長話をしていてアレだが、この人もよく分からない。
いつもは和やかな雰囲気を漂わせているが、時々別人のように鋭い視線を向けている事もある。
経験上、この手の人間はわざとキャラクターを変えている可能性が高い。

紀三井寺『三人姉妹だったらしいんだけど・・・一人亡くなってるらしくて』
翡翠『そう・・・ですか』

カナさんに合わせて声を小さくする。
事故、もしくは病気か何かだろうか？

紀三井寺『よく分からないのは、その娘が《誰》って事』
翡翠『え・・・』
紀三井寺『何回か来てくれてる高校生の娘はユリちゃんっていうらしいんだけど、亡くなったのがお姉さんなのか妹さんなのかがよく分からなくて・・・』
翡翠『・・・』

そんな事、実際にあるのか。
まあ私自身、親の顔も知らないので人の事は言えないけど。

紀三井寺『何か・・・あんまり良くない理由らしいんだよね』
翡翠『・・・』

それで情報が交錯しているのだろうか。
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