フォーム改造(ヒスイ)

翡翠『とりあえず、⑥か⑦かな・・・』

お手洗いから、ベンチへ戻る途中だ。
後に改良型(背中に短いチャックが付いただけの代物)ができたのだが、その頃には着る場面がほとんど無くなってしまっていた。

??『どうしたの、翡翠?』
翡翠『あ、遥さん。えっと、フォームを・・・』
遥『フォームねー・・・確か、翡翠はNPB行きたいんでしょ?』

本西遥(もとにしはるか)さん。
同じ《青》に所属するピッチャーで、粘り強い投球が持ち味だ。

翡翠『・・・はい』
遥『だったら、今年はこれで良いんじゃない?左のワンポイントで使えるって、アピールできると思うし』
翡翠『そうですね』

今日の開幕戦。
阿畑さんの助けを借りて完成させた、新たなフォームで登板に臨んだ。
結果・・・先頭打者に四球を与えるも、その後は三者連続で内野ゴロに打ち取った。
まずまずの出だしと言えるだろう。

遥『もう少し精度が上がれば良い線行くかもね』
翡翠『頑張ります』
遥『うん。私、明日先発だから最終回はよろしくね』
翡翠『了解です』

8回までは投げるつもりらしい。
実際、昨シーズンも投球回数に限っていえば美月さんや萱島さんをわずかに上回っている。
去年、何度か先発した事はあるが6回の途中までが限界だった。

遥『オフシーズンの間、血の滲むような特訓をしてたんでしょ?』
翡翠『え?ま、まあ・・・』

血が滲んでいたのは、私ではなく阿畑さんの様な気がしたがきっと気のせいだろう。
グラウンドで夫婦喧嘩が行われている最中、子供の遊び相手になってあげたのも良い思い出だ。

遥『それこそ、傷だらけになるような・・・』
翡翠『・・・』

傷だらけになっていたのも、私ではなく阿畑さんだと思ったがきっと何かの見間違いだろう。
たこ焼きを全部食べてしまったとかトイレを流し忘れたとか、毎回下らない理由ばかりだった。
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