フォーム改造(ヒスイ)

私達のいる女子リーグでは、シーズン終了後に関係者やファンクラブの方々を招きパーティーを開催する。
そこで一年間の御礼を述べたり、来年に向けての抱負等を発表したりする。
選手もユニホームではなく、スーツ姿で参加する。

本来なら今年のパーティーは、去年までとは違った意味を持っていた。
ドラフト指名された萱島さんを盛大に送り出す。
・・・はずだった。

ドラフト指名されてから、しばらく後の事だった。
寮の近くにある練習グランドに、遥さんが血相を変えて駆け込んできた。
萱島さんの様子がおかしいと言われ、美月さんとキャッチボールをしていた私や他の娘達もとりあえず寮に戻る事にした。

私達が寮に戻った時には既に会見の中継は終了していたが、食堂の雰囲気が尋常では無かった。
ひたすら心配する者、何かあったのではないかと騒ぎ立てる者、中には不快感をあらわにしている者もいた。
テレビを見てみるとアナウンサーが少々困惑した表情で、取り繕うようなコメントを並べていた。

どうやら、単独で行われた記者会見で何かあったらしい。
後日、動画サイトで見てみたが質問された事と全く見当違いな事を話していたり何度も同じ事を聞き返したりと、完全に心ここにあらずといった具合だった。

・・・そういえばあの時、一人だけ様子がおかしい人間がいた。



イルだ。

ガタガタと震え、顔色も悪く何かに怯えているような感じだった。
ただ、この時は会見の事で話題が持ち切りだったので私以外に彼女を気にかけている人はいなかったと思う。
それとなく聞いてみようと思ったが、私自身が別の懸念事項を抱えており、また後日行われた謝罪会見では特に何も問題は無かった事もあってタイミングを逸してしまった。

田崎『ねえ、翡翠さん』
翡翠『・・・!な、何?』

イルが話しかけてきた。
思わず声が上擦ってしまう。
下手な事を聞いて怯えさせるのは、彼女自身の為にも良くはないだろう。

田崎『やっぱり今度、何か技教えて下さいよー』
翡翠『別に構わないけど・・・使うアテでもあるの?』

あの後、イルが外に出ようとした所でちょうど雪さんが戻ってきた。
夕飯に誘ってみたが、妹と約束があるとの事だった。
相変わらず口数は少なかったが、いつもより少し緊張しているようにも見えた。

田崎『そうですねー、とりあえずは今度お兄ちゃんに・・・』
翡翠『・・・』

試合会場で、それらしき人物の姿を何回か見かけた事がある。
次会ったら、受け身の練習をしておくように忠告しておいた方が良いだろう。

田崎『それに・・・ほら、カッコイイじゃないですか!ね、遥さん?』
遥『そうね・・・あれ?ちょっとゴメン』
田崎『後は、将来夫婦喧嘩した時とか・・・』
翡翠『あのねー・・・』

思わず苦笑してしまう。
遥さんが電話しているので、私とイルは小声だ。

遥『・・・え、今から?場所は?』
田崎『私の飯がマズイですって?ズバーン!浮気したわね?ズバーン!給料安い!ズバーン!』
翡翠『・・・』

巷で良く耳にする、DVの逆バージョンか。
しかも、最後のはちょっと可哀相だ。
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