フォーム改造(ヒスイ)

翡翠『お待たせしました・・・』

マジックを持って、男性の所へ行く。
ちなみに今の時間、グラウンドで練習していたのは私しかいなかった。
シーズンオフという事もあり、帰省している娘も多い。

翡翠『えっと・・・』
??『お?・・・ああ、そっかそっか。ほな、せっかくやし頂こうか』

他のページから、私のページに慌てて戻す。
男性から本を受け取り、自分のページにサインをする。

??『おおきに』
翡翠『ありがとうございます。是非、またいらして下さい』

今年、何度したか分からない挨拶をする。
男性は私の事をジッと見てきた。
無精髭が生えており少し不潔な感じだが、何となく何処かで見たような気もする。

??『それにしてもお嬢ちゃん、随分鬼気迫っとったなぁ』
翡翠『・・・そうですか』
??『あまりにも怖くて、少しチビってもうたわ』
翡翠『・・・』

少し男性から距離を置く。

??『・・・冗談や。そんなジト目で離れなくてもええやん、ベッピンさんが台なしやで』
翡翠『・・・』

面倒臭い人に当たってしまったと思った。
たまに来る、こういう人。
さっきまでの愛想笑いも何処かに消え失せてしまう。

??『あまりにも熱中していたさかい、話しかけるタイミング分からんかったわ』
翡翠『すみません・・・』

一応、謝っておく。
距離を置いたまま。

??『おかげでタコ焼き、全部自分で食うてもうた』
翡翠『・・・』

空になった箱に『デラたこ』と印刷してあった。
一般的なタコ焼きより一回り大きく、たまにチームメイトが買ってくる。
よく見ると、男性の口の周りには青海苔が付着していた。

??『何か、理由でもあるん?』
翡翠『え・・・?』

口に青海苔を付けたまま、男性は問い掛けてきた。
さっきとは違い、表情が真剣だ。
ただし、青海苔を付けたまま。

??『ワシの推測なんやけど・・・お嬢ちゃん、もっと上行きたいんとちゃう?』
翡翠『・・・!』

完全に図星を突かれ、ハッとしてしまった。
今の態度が、何よりも肯定の証拠だろう。
そう、私はプロ・・・すなわちNPBを目指している。

今年、ドラフトで女子リーグから一人が指名された。
そしてそれは、リーグ初の快挙であると同時に私達にとっても希望の光だった。

??『けど、無理やな・・・』
翡翠『な・・・!』

だから、その後に浴びせられた言葉は私の神経を完全に逆撫でした。
3 / 10
3/58ページ