5人目の女子選手(なつき)

実はもう一人、女子リーグから指名される可能性がある選手がいたが、残念ながら彼女は指名されなかった。
遥によると、最後の方に登板した数試合で評価を落としてしまったらしい。

その『もう一人』の名前は、西条美月(さいじょうみつき)。
女性ながら、140Km超の直球とフォークを武器とする本格派だ。
父親は数々のタイトルを獲得したピッチャーで、現在はカイザースで投手コーチをしている。
私服姿も載っており、少し派手な感じだが上手く着こなしていた。

ユリ『いらっしゃいませー』
みわ『あらぁ、角ちゃんじゃないの。久しぶりね~』

インタビュー記事をさらに見てみる。
数ページに渡ってインタビューの記事が掲載されており、所々に萱島の写真も載っている。
どれも、笑顔や希望に満ちた表情で写っていた。

何となく、店内を見渡す。
オカマ店長は、先程来た角刈りの男性客と話し始めた。
ユリも、水を出したり注文を取ったりと忙しそうだ。

なつき『・・・』

私は、去年の入団会見を思い出していた。
女子選手で、しかも久々のピッチャーという事もあり注目が集まる。
入団会見には多数の報道陣が詰め掛けた。

みわ『はい、これメニューね』
ユリ『お冷やのお代わりはよろしかったでしょうか?』

結論から言えば、その会見は決して良い物では無かった。
終始上の空といった感じで、受け答えも質問とは違う内容を話したり、何度も聞き返したりといった具合だった。
結局、会見は途中で打ち切られた。
各新聞記事では『女子選手入団会見、あまりの緊張のため途中で打ち切り』等と掲載され、後日球団からも同じ理由での謝罪会見があった。

みわ『ユリちゃん、これお願ーい』
ユリ『あ、はーい』

私も朝のスポーツニュースで会見の模様を見たが、緊張というより何かに怯えているように見えた。
記憶の蓋を開け、自分の時を思い出してみる。

・・・確かに緊張はした。
だが、怯えていたような記憶は無い。
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