監督初日(なつき)

ユリ『ほらー、もっと声出して!』

次の日。
いつも通り二日酔い気味で、部活の指導を行っていた。

ユリ『うん、今の良かったよ!』

私は、ユリがあの店でバイトしてる事を誰かに話した事は無い。
遥と電話していた時、オカマ店長の店についての話題が出た事があるが《ユリ》という固有名称は一度も出していない。

ユリ『よーし、もう一回!』

・・・まあ、店が忙しかったという事も有り得る。
変装していたのしれないし。

ユリ『もう少しだから頑張ってー!』

ユリかオカマ店長、もしくは常連客の誰かがリナと知り合いという事も考えられる。
ユリに聞けば何か分かるかもしれない。
本当かどうかは分からないが、ユリは一度見た女の顔は忘れないらしい。

なつき『・・・』

でも、それを聞く事はしない。
一昨年以来、私は校長から言われた事を愚直に守ってきた。
リナがユリの家族に関わっている可能性もゼロではないからだ。

ユリ『はい、一旦休憩ねー!』

お互い酒が飲める年齢になったら、聞いてみようと思う。
もしくは、今度何かあった場合。
校長ならある程度の事情は知っているだろう。

なつき『・・・忘れるか、とりあえず』
ユリ『何をですか?』
なつき『うわあっ!!』

目の前に、ユリの顔があった。

ユリ『私は忘れませんよ』
なつき『・・・』
ユリ『先生の全身のホクロの数。それから先生との・・・イタッ!』

これ以上は書けないので、丸めた週刊誌に渾身の力を込め一撃を食らわす。

ユリ『痛い・・・酷い・・・冷たい・・・』
なつき『・・・』

ユリを見てみる。
涙目になって頭を抑えていた。
こんなでなければ、彼氏の一人位いてもおかしくない。

ユリ『うう・・・』
なつき『ほら』

スポーツドリンクを渡す。

ユリ『すみません・・・ゴク・・・ゴク・・・』
なつき『美味いか?』
ユリ『はい。先生の飲みかけなら、もっと良かったんですけど・・・』
なつき『・・・』

いつも通りの受け答えだった。
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