初勝利(栗橋)

姫野『とりあえずはこんな所で十分ですわね・・・』

手提げの紙袋の中には、お菓子の詰め合わせが二つ入っている。
どちらも、それなりに高級な物だ。

萱島『あの・・・このお菓子、どうするんですか?まさか、自分で・・・』
姫野『んな訳ないでしょうが!これだから小便臭い小娘は・・・』
萱島『む~・・・!私、ちゃんと拭いてますよ?それに、お風呂にも毎日入っていますし・・・』
姫野『例えですわよ、例え。できる事ならこれから全部食ってやりたいですわよ、ったく・・・』
萱島『・・・』

あれだけ(タダで)食べたのに、まだ足りないのだろうか?
思い出すだけで胃もたれがする。

姫野『頭下げに行くのに手ぶらで行ける訳ないでしょう?』
萱島『あ・・・』
姫野『私にも責任の一端はありますからね・・・明日、朝9時に駅で待ち合わせしましょう』

急に私は申し訳ない気持ちになった。
この人は私の事を真剣に考えてくれている。

萱島『あの、姫野さん・・・』
姫野『何でしょうか?』
萱島『私にも、何か御礼させて下さい』
姫野『いえ、別に構いませんわ。それよりも明日は・・・ん?』

姫野さんの足が止まった。
いつの間にか、私が通うあかつき大附属高校の前に来ていた。
しばらく何かを考えていた姫野さんは、突然改まった様子でこちらに向き直った。

姫野『萱島様』
萱島『・・・はい』
姫野『ワタクシ・・・実は、あかつき野球部の生徒に大切なお届け物をしたいのです。ですが名門ゆえ、セキュリティは万全で・・・』
萱島『・・・』

だから初めて会った時も、学校の近くにいたのだろう。

姫野『どうしても直接お会いして、お渡ししたいのです・・・』
萱島『・・・分かりました。姫野さん、一緒に来て下さい・・・』

姫野さんに何か御礼ができる。
それだけで私は満たされた気持ちになっていた。

姫野『ここは?』
萱島『裏口です。ここのセキュリティは正面よりは甘いんです。・・・終わりました』

練習場の裏口に来た。
この程度の鍵なら、すぐに解除できる。

姫野『・・・ありがとうございます、萱島様。これで無事にお届けする事ができます。ここからはワタクシ一人で参りますわ』

明日忘れないように、と念を押して紙袋を私に預けてきた。
姫野さんが練習場へ入っていくのを見届けた後、私は満足な気持ちで帰路に着いた。
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