初勝利(栗橋)

萱島『先輩、お疲れ様です』
栗橋『お疲れ~』

シーズンが始まってから、しばらく経った。
オレ、矢部君、そして萱島さんの三人は、何とか一軍に残っている。

萱島『矢部先輩は?』
栗橋『マニアショップだって。こっちの方にしか無い店みたいで』

萱島さんともそれなりに話すようになった。
野球の事を真剣に話す事もあれば、下らない話で盛り上がる事もある。
立場が近い事もあり、三人で食事に行く事も多い。

萱島『マニア・・・ショップですか?』
栗橋『うん。注文してた本が入荷したみたいで』
萱島『・・・』

またか、といった表情になる。
高校時代にそういう類の店に付き合わされた事があるが、とにかく店内が歩き辛かったのを覚えている。
狭い店内に、フィギュアやプラモが所狭しと並び、壁や天井はポスターで埋め尽くされ、本棚には薄い本がぎっしりと陳列されていた。
信じられない値段が付いている物も多く『●●ちゃんを迎えに行く為にプロ野球選手になるでやんす!』と宣言した矢部君の眼鏡は、とても凛々しい形をしていた。

萱島『これから食事でも・・・って思ったんですけど、栗橋先輩だけでもどうですか?』
栗橋『どっか行きたい店とかある?』
萱島『オススメの店があるんですよ、そこで良いですか?』
栗橋『うん、任せるよ』

この辺りの店は、あまりよく知らない。
オレは基本的に、全国どこにでもあるようなチェーン展開している店に行く事が多い。
遠征先でも同様だ。
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