キャンプイン(栗橋)

メールを打とうとした途端、着信が入った。
知らない番号だ。

栗橋『ちょっとゴメン』
矢部『やんす』

矢部君に断って、部屋を出る。
廊下に出た所で、着信のボタンを押した。

??『良かったぁ、やっと繋がった・・・』

若い女性の声が聞こえた。
何処かで聞いた覚えがある。

栗橋『えっと・・・』
??『無事に届いたみたいで何よりです』
栗橋『あの・・・君は?』
??『あ、ごめんなさい。昨日の夜、喫茶店で栗橋さんにサインしていただいた者です。プライベートなのに、本当にありがとうございました』

さすがにインパクトが強かったので、すぐに思い出した。
確か・・・白い服を着ていて、サオリと名乗っていた。

サオリ『写真まで一緒に撮っていただいて、何とお礼を申し上げれば良いのか・・・』
栗橋『・・・』

お礼ならその時してもらった・・・とは、さすがに言えなかった。
『なんてイヤらしい人なんですか!失望しました!!』と言われては堪らない。

サオリ『あ・・・それで、あの後忘れ物をしたので一旦店に戻ったんです』
栗橋『う、うん・・・』
サオリ『私の忘れ物はすぐに見つかったんですけど、栗橋さんの座っていた所に携帯電話があって・・・』

やはり昨日、喫茶店で落としてしまったようだ。
ポケットに入れたままなのが良くなかったのだろう。

サオリ『店の人に頼もうかと思ったんですけど、栗橋さん困っていると思って・・・』

キャンプ中に滞在してるホテルは、球団のホームページに載っている。
場所を調べて、わざわざ届けてくれたのだろう。

栗橋『ありがとう。助かったよ』
サオリ『い・・・いえ、そんな』
栗橋『本当にありがとね。結構ヘコんでたんだ』
サオリ『それで、あの時ちゃんとお礼もできなかったので・・・あの、もしかして迷惑でした?』
栗橋『い、いや・・・そんな事無いよ。大丈夫』
サオリ『良かったぁ・・・嫌われちゃったかと思って』

あの時のファンに比べれば天と地の差だ。
・・・『お礼』もしてもらったし。

サオリ『あ、もうこんな時間。栗橋さん、本当にありがとうございました。今シーズン頑張って下さい』
栗橋『うん。こちらこそ・・・』

言い終わる前に電話は切れた。
メール作成画面に戻る。
宛先に『橘みずき』の文字。

栗橋『・・・』

少し考えた後、『萱島さんの件ですが、自己紹介だけはしました。』と無難な内容でメールした。
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